藤ノ木古墳「金銅製筒形品」は被葬者の頭飾り 毛髪残存が保存処理で判明
金銅製の冠などで知られる藤ノ木古墳(奈良県斑鳩町、6世紀後半)の副葬品(国宝)の保存処理の成果を紹介する企画展「再び輝き始めた藤ノ木古墳」が、同県橿原市の県立橿原考古学研究所のアトリウムで開かれている。保存処理の過程で石棺内で見つかった「金銅製筒形品」に毛髪とみられる繊維質が付着していたことが判明。皇族クラスとされる被葬者の頭飾りだった可能性が高まり、写真パネルで紹介されている。12月27日まで。 【写真】修復された金銅製の靴 藤ノ木古墳は同研究所が昭和60年から発掘し、被葬者を納めた家形石棺が未盗掘の状態で見つかり、石棺の周囲から数多くの金銅製の馬具が出土。石棺内には金銅製の冠や靴、被葬者2人分の人骨などが埋葬された状態で残り、考古学史に残る発掘となった。 副葬品の保存処理は当時も行われたが、数十年を経て劣化も見られるようになり、同研究所が令和3年度から13年間の計画で約1万6千点の保存処理に着手。これまでに約1200点が終了し、中間報告として企画展を開催した。 金銅製筒形品は長さ約40センチ、最大径6センチ。中央が細くなる形状で、表面には歩揺(ほよう)と呼ばれる飾りが多数付けられ、被葬者の頭部付近から見つかった。保存処理に伴って、表面に付着する繊維質を分析したところ、「毛髄質(もうずいしつ)」に相当する構造が確認され、毛髪の可能性が高まった。 石棺内調査を昭和63年に行った前園実知雄・奈良芸術短大特任教授は「金銅製筒形品は被葬者の頭の装飾品と考えてきたが、科学的な分析で裏付けられた意義は大きい。発掘から約40年ぶりとなる今回の保存処理は、大変緻密で丁寧な作業。今後もさまざまな新しい情報が引き出されるだろう」と期待を寄せる。 アトリウム展では、金銅製の冠や靴、馬具などの保存処理の状況も解説。中でも、冠や靴は厚さ1ミリ未満の金銅板を加工したもので、約1400年を経て亀裂などが多数確認されたが、和紙や樹脂で補強した。歩揺をつり下げる針金が折れる危険もあることから、和紙で針金を補強するなど精緻な作業の様子も写真パネルで紹介している。 金銅製の靴は、隣接する同研究所付属博物館(入館料必要)で公開されており、補修箇所は肉眼で全く分からないほど精巧に処置された様子も観察できる。
アトリウム展は見学無料。平日午前8時半~午後5時15分。今月24日の正午~午後4時半も見学可能。問い合わせは同研究所(0744・24・1101)。