「スーツ離れ」はもう止まらない…紳士服大手を苦しめるビジネス服の「ユニクロ化」が行き着く先
ビジネス服のカジュアル化で、紳士服大手が業績悪化に苦しんでいる。ライターの南充浩さんは「オーダースーツなど一部で『復調』というジャンルもあるが、大手は軒並みコロナ前の業績に届いていない。紳士服業界は根本的な構造転換を迫られることになりそうだ」という――。 【図表5点】紳士服チェーン大手4社の業績。コロナ前との比較で「スーツ離れ」が進んでいるかがわかる ■カジュアル化が進んでスーツ業界は大苦戦 今年もまたクールビズの季節が始まりました。2005年にクールビズが導入されてから、この20年間で、夏に限らず通期で男性のビジネスにおける服装は圧倒的にカジュアル化が進みました。さらに、2020年春からのコロナ禍によるリモートワークの普及がさらにカジュアル化に拍車をかけたといえます。 ビジネス時におけるドレスコードは、三十数年前に私が社会人デビューしたころと比べて格段にゆるくなっています。当時男性社員は真夏でもスーツの上着着用でネクタイを締めることが義務付けられていました。 半袖のシャツを着ることは禁止されていませんでしたが、どこの社内にも「本格派」のオジサンが何人かおられて「スーツの下に着るシャツは長袖に限る」という固い信念をお持ちでした。信念をご自身にだけ適応されるのは全く構わないのですが、中にはその信念を他人に押し付けてくる困ったおじさんもおられました。懐かしい話です。 現在、銀行員などの堅い職業でも真夏はジャケット無しの半袖シャツ1枚が普通になっており、あの頃と比べると全く別世界のようです。 そんな中、帝国データバンクが「紳士服に復調兆し」というレポートを公表しました。 レポートによると、コロナ禍で激減したスーツ需要が、冠婚葬祭の再開やオーダースーツ人気の高まりなどで「復調」しているというのです。 これは本当なのでしょうか。
■スーツ購入額は30年で5分の1以下に メンズビジネスウエア(いわゆるスーツ、ワイシャツ、ネクタイなど)の売れ行きは2005年以降右肩下がりを続けてきました。筆者がアパレル業界にいた90年代後半以降、多くのワイシャツメーカー、ネクタイメーカーが倒産してきました。 総務省の家計調査(2人以上世帯)によると、1991年に約1.9万円だった背広服(スーツ)の購入金額はコロナ禍の2021年には2721円にまで下落し、回復したとされる2023年でも3382円となっています。 2020年春から始まったコロナ禍によって、在宅ワークが長期間続いたことから、さらに急激に売れ行きが減ることになりました。実店舗営業ができなかったためアパレル企業は全体的に売れ行きが大きく落ち込みましたが、中でもメディアの目を引いたのが、メンズスーツ大手各社の苦戦でした。 青山商事、AOKI、はるやま、コナカのいわゆる紳士服チェーン大手4社の業績を見てみましょう。報道にもあるようにコロナ自粛が緩んだ直近の業績は軒並み底打ちを脱したという感じです。 ■大手は軒並みコロナ前の業績に届いていない 青山商事とAOKIは増収大幅増益、はるやまHDとコナカは減収ながらも大幅増益となっており、23年5月以降のコロナ自粛解禁が大きく後押ししたと考えられます。 ただ報道にあるように「復活」とまでいえるかというとそれは難しく、軒並みコロナ禍前の2019年度実績には届いていません。ですから「回復基調」くらいが実態でしょう。 実際に青山商事のコロナ前(2019年)の決算と比較してみましょう。 売上高と本業の儲けを示す営業利益は、19年3月期は24年3月期を大きく超えています。この業績で減収減益なのですからその前年の18年3月期はどれほど好調だったかという話になります。他の3社もほぼ同様です。 AOKIも売上高は19年3月期には届いていません。 かなり厳しいのがはるやまHDで、19年度比では大幅減収減益となっています。 現在の売上高は19年度と比べて約30%減に終わっています。