最近聞かない「可変翼機」なぜ衰退した? 翼の角度が変えられる飛行機 そもそもメリットは?
F-14の特徴「可変翼」新型機では見ないけど
2022年に上映された映画『トップガン・マーヴェリック』では、劇中にF-14「トムキャット」戦闘機が登場し、喜んだファンも多いのではないでしょうか。前作の大ヒット映画『トップガン』ではアメリカ海軍が全面協力し、空母から発艦するシーンや敵機とのドッグファイトなど、F-14の勇姿を余すところなく映像で伝えていました。 【全然違う!】F-14「トムキャット」翼を最大限に広げた状態と最小限に畳んだ状態を見比べ(写真) F-14「トムキャット」は、アメリカ海軍においてF-4「ファントムII」の後継機として開発された2人乗りの戦闘機で、1973(昭和48)年に配備が開始されています。飛行状況に応じて主翼の角度を変えることが可能な、いわゆる可変翼を採用しているのが特徴で、その様子は映画の中でもたびたび見ることができます。 しかし2024年現在、アメリカ海軍のF-14のみならず、世界中を見渡しても可変翼機は主流ではなく、運用されている可変翼機は英独伊共同開発の「トーネード」や、旧ソ連(ロシア)製のMig-23、Su-24、Tu-160などに限られています。なぜ、これほどまでに可変翼機は衰退してしまったのでしょうか。 その前に、そもそも可変翼とはどのようなものなのでしょうか。 航空機はジェットエンジンの登場によって、より早いスピードで飛行することが可能になりました。そのようななか、主翼に空気抵抗の少ない後退角を持たせた「後退翼」が登場します。後退翼は高速飛行には適していますが、直線翼と比べると離着陸時や低速時の安定性が劣ります。 そこで、高速性と安定性を両立させるために、状況に応じて主翼の角度を変え飛行特性を変化させることが可能な可変翼が登場しました。この可変翼の開発は、第二次世界大戦のナチスドイツにまで遡ります。
「あーそういう意味!」な可変翼もあった
1942(昭和17)年にドイツで初飛行したジェット戦闘機メッサーシュミット Me262は、エンジンの配置など重心調整で後退翼が採用され、後にそれが高速飛行に適していることが判明します。そして、音速で迎撃するジェット戦闘機として開発されたメッサーシュミット P.1101は、主翼の後退角を変えることで飛行特性を変化させる可変翼機として研究されますが、完成前に終戦となり実用には至りませんでした。 一方、ソ連では1940(昭和15)年に下翼を上翼に引き込み複葉と単葉に可変する戦闘機「ニキーチン・シェフチェンコIS-1」が開発されましたが、この可変方式は発展しませんでした。 戦後、未完成のP.1101を本国に持ち帰ったアメリカが、1951(昭和26)年に可変翼実験機X-5の試験飛行を成功させます。その後、実用化を目指して様々な可変翼の航空機が開発されますが、主翼角度の変化によって操縦特性も変わるため、うまくいきませんでした。 可変翼機が実用化されたのは、1964(昭和39)年に初飛行を行ったF-111「アードバーグ」です。同機はアメリカ空軍やオーストラリア空軍に採用され、ベトナム戦争や湾岸戦争などに参加しました。 当初、F-111は開発費と維持費の軽減のため、アメリカ空軍と海軍とで共通化した機体にする予定で、計画では空軍型のA型と艦上戦闘機型のB型を開発する予定でした。ところが空軍と海軍の要望を採り入れるために様々な機構を採用した結果、機体の重量が予想よりはるかに増加し、海軍は重量増加では運用は困難とB型の採用を取り止めたため、A型のみがアメリカ空軍に採用されました。 その後、技術革新によりコンピューターによる飛行制御が可能となったため、F-111も「CAS(コントロール増強システム)」を導入。これにより、ようやく可変翼が実用化に至ります。なお、F-111の主翼角度は、飛行中にパイロットが手動で変更させる方式でした。