病気が発覚し、やせ細ってしまったタンタンに「どうにか薬を飲んでほしい」…飼育員さんたちの強い願い
「いったい、なんだったら食べてくれるんだろう」
「可能性があるものは手当たり次第試してみるしかない。食べてくれたらラッキー」 そう言いながら梅元はイチゴのヘタを取ると、タンタンに見つからないよう薬の錠剤を果肉の奥まで押し込んだ。 「タンタンおいで、イチゴだよ」 梅元が一番期待していたのが、この完熟イチゴ。甘味に加えイチゴ特有の濃厚な香りもあるため、薬のにおいを消してくれるのではないか。梅元はかすかな期待を抱きながらイチゴを柵の隙間から差し入れ、コンクリートの上に置いた。 「タンタン、おいでおいで。甘くておいしいよ」 タンタンは梅元の呼びかけを面倒くさそうに聞きながらイチゴに近づいてきた。 クンクン クンクン においをかいだ次の瞬間、フー。まるでため息をつくように大きく息を吐き出すと、くるりと背を向けてしまった。呆然と見つめる梅元。失敗だ─。 続いて試したのは、サツマイモ。甘味を増すため蒸したふかし芋を与えてみた。においをかぐとタンタン、今度は指先でサツマイモをはじき飛ばした。大失敗だ─。 「いくらなんでも、これはひどい。悲しくなるわ」 相手にもされなかったサツマイモを拾いながら梅元はうつむいた。この後も梅元がこれはと選んできたものはすべて失敗に終わり、思惑はものの見事に打ち砕かれた。 「いったい、なんだったら食べてくれるんだろう」 タンタンのいない空のスクイズケージを前に梅元がぽつりとつぶやいた。吉田と菅野獣医師で今後の治療方針を話し合ったが、薬を飲んでくれなければなにも先には進めない。三人は途方に暮れるしかなかった。
明日もまたタンタンと会えるように
薬をどう飲ませるかと並行して、梅元と吉田にはもうひとつ力を注いでいることがある。 「ええやん、ええやん。ほんまええやん」 臨時休園のため観覧者のいない屋内展示場の通路で、梅元がカメラを構えている。ガラス越しに写しているのは寝台でごろごろするタンタンの寝姿。舌を出して手をなめたり、後ろあしを片方持ち上げたりする瞬間、身を乗り出してシャッターを切る。 「これにしようかな」 控え室に戻ってくると梅元は、撮影した写真や動画のなかからタンタンの特徴をよくとらえたものを選ぶ。そこに写したときの状況などコメントを短く添えると、SNSに投稿した。緊急事態宣言によって動物園は臨時休園しているが、多くの人たちからタンタンの病状を心配する声が寄せられている。二人の飼育員は少しでもタンタンの様子を知ってもらおうと、日に何度も投稿するようにしている。 そして、一日の終わりの投稿で、梅元が必ず添える一言がある。 #また明日ね この一言には「明日もまたタンタンに会えるように」という、梅元の強い願いが込められている。 梅元と吉田の投稿には、タンタンを応援する人たちから多くのコメントが寄せられる。なかには頑張るタンタンから力をもらっているという感謝の言葉が書き込まれることも。心臓疾患に立ち向かうタンタンは、かわいいパンダという枠を超え、多くの人に勇気と希望を与える存在になっているのだ。
杉浦 大悟(NHK 専任部長)