病気が発覚し、やせ細ってしまったタンタンに「どうにか薬を飲んでほしい」…飼育員さんたちの強い願い
2024年3月31日に多くの人に見守られながら28年の長い生涯に幕を下ろしたタンタン。神戸市立王子動物園で暮らしていたパンダのタンタンは、短い手足にモフモフとした毛並みがぬいぐるみのようにかわいらしく、“神戸のお嬢さま”と呼ばれ、多くの人に愛され続けています。 【写真】「隠し撮りがバレました…」パンダと飼育員さんの微笑ましすぎるやりとり NHK「ごろごろパンダ日記」の番組プロデューサー・杉浦大悟氏は、タンタンと、飼育員の梅元さん、吉田さん(以下、敬称略)の日々を見つめてきました。そんな杉浦氏がタンタンの“パン生”を辿り、執筆したのが『パンダのタンタン 二人の飼育員との約束』という本。 心臓の病が発覚し、症状を抑えるための薬を服用することになったタンタン。しかし、予期せぬ問題が立ちはだかりました。第二回【赤ちゃんとパートナーを失い、食欲をなくしたパンダの「タンタン」に少しでも食べてもらうため…飼育員さんたちの「覚悟」】に引き続き、タンタンと飼育員さんの日々をお届けします。
「うーん、やっぱり食べないね」
「見て、満開よ! きれいねー」 王子動物園に植えられた約480本の桜が見事に咲き誇ると、園内は花見客でにぎわった。多くはパンダ舎にも訪れ、屋内展示場でタンタンが竹をおいしそうに食べる姿などを見て歓声をあげる。いつもと変わらぬ光景に見えるが、バックヤードの小窓から見ている梅元は腕組みをしながら深くため息をついた。 「うーん、やっぱり食べないね」 隣で見ている吉田は、梅元の言葉に無言でうなずいた。二人が注目しているのは竹のことではない。台の上に残されたままになっているブドウとリンゴ。 いつもなら大好物のリンゴとブドウを真っ先に食べてから竹に取りかかるのがタンタンの食事スタイルだが、この日は、においをかぐだけで食べようとしない。結局口にすることなく、竹を食べ始めてしまった。いったいなぜ食べないのか? その理由は、このリンゴとブドウに病気の症状を和らげる薬が隠されているから。 一般的にパンダに薬を与える場合、好物であるハチミツに薬を混ぜることが多い。ハチミツ自体のにおいが強いため、薬に気づかれにくいからだ。ところがタンタンは、なぜかハチミツが苦手。代わりに大好きなブドウとリンゴに薬を隠して与えることになったのだが、普段と違うにおいが気になるためか、薬入りのエサを食べなくなった。このまま薬を飲ませることができないと心臓の病気が進行し、体調はますます悪くなってしまう。