萩原利久が語る、映画『朽ちないサクラ』への思い「以前から警察官役を演じてみたいと思っていました」
──『朽ちないサクラ』の原作と脚本を読んだ時、どんなことを感じましたか? 脚本と原作、共通して感じたのは色々な視点のある作品だということでした。事実はひとつですが、立場や環境によって見え方や感じ方、温度感が大きく違います。視点の多さがこの物語のひとつの面白さであり、現代社会と重なる部分でもあると思いました。SNSが浸透したことで簡単にたくさんの情報が得られるようになりましたよね。僕自身、ニュース記事の見出し一行を見ただけで、その内容がわかった気になってしまうことがあります。いま起きていること出来事に対しての温度感はひとりひとり違うと思いますし、『朽ちないサクラ』で描かれている出来事自体は非日常的なものかもしれないけれど、いまの時代を生きている多くの人が感じているような要素が混ざっているんじゃないかと思いました。だからこそ、ぞっとするところもあるように思います。 ──ご自身が演じられた磯川俊⼀という役柄についてはどう感じましたか? 濃い登場人物ばかりの中で本当にクリーンな子だと思いました。色々な出来事をストレートに捉えているので、色に例えると白のイメージ。そこに濁りがあるとまた別のニュアンスが付いてしまってもったいないと思ったので、何にも染まっていないということを大事にしながら演じました。
──磯川は同期である泉に対し、恋心を隠し持ちながら泉の独自の捜査をサポートします。その関係をどう捉えましたか? 磯川が親友を殺した犯人を捜す泉をサポートしようとする最初の動機は恋心です。その恋心というのは、演じる上で振り切ることもできるし抑えることもできるので、しっかりとした調整が必要だと思いました。恋心は行き過ぎると犯罪に手を染めてしまう人がいるくらい、人を動かす強い動機になります。なので、監督との打ち合わせの際に、どこまでそれを表に出すべきかということを確認した上で、きちんとその動機に向き合った上でそこまで出過ぎないように意識しました。恋心がきっかけではありますが、磯川が事件の内容を知って、シンプルに「泉さんに力を貸したい」という気持ちを持つようになるという変化をちゃんと表現したいというのが僕なりの着地点でした。 ──『朽ちないサクラ』に出演したことで役者としての新たな発見はありましたか? シーンの頭から最後までカメラを回し続ける長回しが多かったのですが、長い時間の最後の一瞬まで気を抜かないように意識する緊張感はやはり独特だと思いました。僕はその緊張感は嫌いではなく、そこでのどこか極限まで追い込まれるような感覚は、今度さまざまな場所で活かすことができるんじゃないかという手応えがありました。研ぎ澄まされるような感覚がありましたし、いつも以上に視野が広くなるような気がしました。あの感覚を色々な場所で使えるようになったら、またひとつ成長できるんじゃないかなって。というのも、僕は芝居をする上で慣れることが苦手なんです。カットを重ねるとだんだん慣れてきてしまって、鮮度を保つことに苦労してしまう。一番わかりやすいのが驚く演技だと思うんですが、生きていて意識的に驚くことはあまりないですよね。だから、演技だとしても最初のカットが一番リアルだと思うんですが、僕の場合、繰り返して演じているとだんだん驚いたという行為をしなければいけなくなってくるんです。そうなるとちょっとムズムズする感覚が生まれてくる。だから、いかに鮮度を落とさないかが自分の中の大きなテーマなんです。頭から最後まで長回しで撮ると、会話の流れだったりがひとつずつ順を追って進んでいくので、いつもより鮮度のことを意識せずに芝居ができた感覚があります。 ──作品の資料によると、原廣利監督が今作での萩原さんの演技に対し、「子どもみたいに明るいのに芝居がとても器用。相手の芝居に対して毎回きちんとリアクションを取っていて、セリフを並べるのではなく生きた芝居をしている」と絶賛されています。 (笑顔で拍手をしながら)やったー! ──(笑)実際に意識されているところはあるのでしょうか? 台本があって(次に)起こることは知っているので油断すると流してしまうんですよね。極論ですが、相手のセリフを全く聞かなくてもお芝居はできてしまう。でも、僕としては限りなくリアルでありたいと思っているので、普段の生活と同じように、ちゃんと相手の言っていることを聞いて、相手のことを見るということは意識しています。言葉が瞬間的に出てくるのも、相手の話を聞いているからですしね。