東京ショー、マツダのあの4ドアクーペが秘める市販計画 新型Xの直6搭載?
「単純なウソや絵空事じゃないんです」
さて2年前のビッグサイトで問い詰められた松田氏は、話して良いものかどうか考え込んでから「このまますぐに売るかと言われれば、それはありません。でも絵空事ではないんです。こういうクルマを作るためにはステイクホルダーに応援してもらえる態勢を作らなくてはならないんです。ウチも小さいなりに会社ですから、そういう手順は要ります。だからウチのデザイン部が全力を傾けてとにかく見ただけで魅惑される美しいクーペを作りました。 ステークスホルダーの皆さんが『良いね。やりなよ』と言ってくれる美しいスタイルのクルマを作ろうとしたんです。すぐに市販計画のあるクルマではないのは確かですが、単純なウソや絵空事じゃないんです。ホントに作りたい。作らせて下さいお願いしますの心でできたのがRX-VISIONなんです」。 ちなみにデザイン統括取締役の前田常務に「前田さんの美しいクルマの原点はどこにあるのですか?」と尋ねたことがあるが、そこで名前が挙がったのは「ジャガーEタイプ」だった。その理由を尋ねると「余計なことは何もしていない。必要最低限の形でありながらあれだけ美しいという点ですね」と答えた。『RX-VISION』も『VISION COUPE』もそして『魁』も、共通しているのはものの形そのもので勝負している点だ。強制的にハイライトを作る様なプレスラインは皆無。だから角度によってそのハイライトは曲面上を動き、多彩な表情を見せる。 通常、デザイナーは「線を加えない」ことが怖い。加飾することより、加飾を削って行くことの方が遙かに勇気が要るのだ。今回の『VISION COUPE』でも、そこは散々迷い、それでも原則に立ち返って、徹底的に引き算のデザインをやり通したと言う。マツダからの明言はないが、おそらくそれこそが第7世代のマツダ『魂動デザイン』のテーマである。
ただのモックアップではなく仮エンジンで自走可能
さて話は現在に戻って、2017年の東京モーターショーだ。「ウソや絵空事のモデルを作らない」のだとしたら、今回の『VISION COUPE』もまたそれに当てはまることになる。誰がどう見てもFRレイアウトのプロポーション。そしてセンタートンネルは低い。つまりレシプロでFRということになる。 「松田氏」に尋ねる。「これ塗装デリケートだから搬入大変だったでしょう? 指紋が付いたら取れないし、市販車と違って押して大丈夫な場所も少ないし、タイヤを回して押したんですか?」 ── いやいや、とりあえず動かすための仮のエンジンは入ってますから、これでも自走できるんです。 なるほど、ただのモックアップじゃない。自走できるということは何らかのランニングシャシーがあるということだ。マツダでFRと言えばロードスターだが、あまりにもホイールベースが違う。手押し対応程度なら切った貼ったでロードスターを下敷きにできるだろうが、多少なりともエンジンのパワーをかけて大丈夫となれば、これはもうある程度現実的なシャシーがあるとしか思えない。 「へぇ。エンジンが載せられるってことはなにがしかのシャシーは出来てるってことですよね?」 ── 公式にはエンジンは入ってないとアナウンスしています。あくまでも移動用で、クルマとのマッチングだとかそういう話じゃないです。 「まあ、動かすためのものってのは分かります。でもそのエンジンを載せてどこかのタイヤに動力を伝達できる構造にはなっていると。しかもどうやったってFFじゃないですよね? タイヤからドアの間の長さは明らかにFRです。スタイルを見せるためのコンセプトカーでFRの形を見せたいのに、フロントタイヤ位置がパワーユニットの都合で決まっちゃったら問題外ですものね」 ── うーん。ボクはもう限界なので違う松田さんに聞いてください。