錦織は、今、スランプなのか?
錦織圭(25歳、日清食品)が今週出場を予定していたバーゼル大会の欠場を発表した。日本時間の金曜日(23日)のことだ。右肩の痛みだという。 今季の獲得ポイントなどで上位8人に出場資格がある『ATPツアーファイナルズ』に、まだ錦織は〈確定〉を得ていない。残すはバーゼルとパリ・マスターズの2大会という状況での欠場は、よほどの重症ではとも勘ぐれるが、このタイミングで決断したということは別の見方もできる。 2015年の成績のみがポイント加算される〈レース〉で、錦織は7位。上位6人まですでに出場が確定されている。残り2つの枠をめぐり、錦織と8位のダビド・フェレールに加え、9位のジョーウィルフライ・ツォンガと10位のリシャール・ガスケにもチャンスがあった。しかしツォンガは先週木曜日にウィーンの2回戦で敗れ、今週はどこにもエントリーしていないために可能性が潰えた。錦織の欠場発表はその少しあとだった。ATPのルール上、金曜日を過ぎれば余計な罰金をとられるため、ツォンガの動向とは関係なくこのタイミングになったのかもしれないが…。 一方、今週のバーゼルに出場予定のガスケにはまだ可能性が非常にわずかながら残されているが、バーゼルとパリでの優勝が条件であり、錦織が抜かれる可能性は極めて低いとみていい。錦織にとってはポイントの計算システム上、バーゼルで180ポイント以上、つまり決勝に進出しなければ加算されることにならず、出場してもリスクのほうが大きいと判断したのだろう。 ただ、だからといって心配無用というわけではない。ツアーファイナルズに出場できるか否かとポイント計算に躍起になっていると、「なんだ大丈夫じゃないか、ああよかった」となるが、心配するところはそこではない。テニスは〈流れ〉が非常に重要な競技であり、錦織が今、いい流れの中にいないことは今回の欠場からもうかがえるからだ。 全米オープン1回戦負けというショックのあと、デビスカップのプレーオフでの2勝とチームの勝利で早くも立ち直る気配を見せた錦織だった。しかし楽天オープンは準決勝で敗退。ネクスト・ジョコビッチとも評される18歳のボルナ・チョリッチとの初対戦を制し、昨年の全米決勝で敗れたマリン・チリッチから今季2勝目を奪うなど、勝った相手とプレー内容はデ杯からの理想的な〈流れ〉に沿うものだったが、全米オープンで敗れたのと同じ、ブノワ・ペールに敗れて断ち切られた。 続くマスターズの上海大会はあまり相性が良くないが、チョリッチと並んで若手の中心的存在であるニック・キリオスに初戦で逆転勝ちし、さすがと思わせたところへ、これまで2連勝していた相手ケビン・アンダーソンに敗れた。これで「どうした、錦織」という世間の印象が決定的となった。 アンダーソンはこの週、初のトップ10入りを果たしたばかりの29歳で、今年はウィンブルドンの前哨戦でスタン・ワウリンカを退け、全米では3位のアンディ・マレーも破っている。まずは、それくらいの実力のあるトップ10プレーヤーであることは知っておいてほしいのだが、気になるのは第1セットにあった4つものセットポイントだ。遡れば全米オープンでもペールに対して2つのマッチポイントがあり、楽天ではセットを先取したあとの第2セットで5つのブレークポイントを握ったゲームがあった。勝負強さに定評のあった錦織が、決定的チャンスを逃しての負けが続いている。 それはなぜかと聞かれれば、錦織が楽天オープン中に言ったように、「まあそんなときもあります」ということなのかもしれないし、一番の解決策はやはり錦織が言う「経験」の蓄積なのかもしれない。では錦織にまだ足りない経験とは何か------。