【ハイパー四駆SUV 日本公道試乗:フェラーリ プロサングエ】「跳ね馬」であるために必要なものをなんら犠牲にすることはない
余裕の速さ。車両感覚は思いのほか掴みやすい
改めて、ドライバーズシートへ。ポジションを合わせると視界の隅にかすかにフェンダーの峰が入り込んでいる。ドアミラーに視線を移せば、こちらもリアフェンダーが後輪のおおよその位置を教えてくれるという具合で、高めのアイポイントと相まって実は車両感覚は思いのほか掴みやすい。地上高の余裕ゆえに少々の段差は気にしなくて済むのも嬉しいところだ。 ちょっと緊張感がほぐれるのを感じながら、いよいよスタートだ。 ハンドル上のスイッチに触れエンジンを始動させると、始動音もそしてアイドリング時のサウンドも至って控えめで、最初は拍子抜けしてしまった。しかし、それも深夜早朝に出かける際にも気遣いが要らなくなったと考えれば、使い勝手の間口がかつてないほど広いこのクルマには合っていると言えるだろう。 日常域での所作は、ありあまるパワーとトルクをひけらかすことのない穏やかなもので、まさに踏めば踏んだ分だけ、いかにもV型12気筒らしい緻密できめ細やかな回転上昇とともに余裕の風情で速度を高めていく。音圧はやはり大きくはないが、単に静かというのではなく硬質で粒の揃った心地良い音色は、十分に酔わせてくれる。
車重を意識させない走り。そして至ってナチュラル
唸らされたのが、そのフットワークである。操舵していくと、まるで車体が平行移動するかのように軽やかに向きが変わり車高の高さも、2・2トンを超える車重も、まるで意識させないのである。 件(くだん)のFASTはロール剛性だけでなくロールセンターも自在に制御できる。もちろん、その他のデバイスも総動員された結果、ドライバーは車重も重心の高さも特段意識させられることなく、いつものようにハンドルを切り込むだけで、切れ味の鋭いコーナーへのアプローチを味わえる。しかも一連の挙動にはいかにも制御されているという違和感はなく、至ってナチュラルなのだ。 そうやってラインに乗せたら、あとは出口に向かって右足を踏み込むだけ。押し寄せる自然吸気V12のサウンドを浴びながら、ややリア下がりの絶妙な姿勢での呆れるほどの加速を味わう瞬間は、まさに愉悦と表現するほかない。 乗り心地も、低速域ではややコツコツとした感触を伝えるもののその先ではスッと縮んだサスペンションがしっとりと伸びて姿勢をフラットに保ってくれる。ストローク感は他のフェラーリよりやや増しているだろうか。目線こそ高めだが、両足を前に投げ出すようなドライビングポジションも含めて、その操縦感覚は正真正銘フェラーリそのものなのだ。 4ドア4シーターのパッケージ、高い地上高などにより、それこそSUVじゃないとしても、十分SUV的に使える実用性あるいは日常性を備えながら、プロサングエは跳ね馬にとって大切なものを何も犠牲にはしていない。むしろ、そうした存在だからこそピュアにフェラーリらしい走りの世界にこだわった結果が、自然吸気V12の搭載であり、またFASTのような新技術の採用なのだろう。 その技術力、そしてプライドこそが、こうしたクルマを作り上げた。その意味でプロサングエが「フェラーリにしか創り得なかった1台」であることは間違いない。(文:島下泰久/写真:永元秀和)
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