世界の新潮流:「観光する」から「食べる」に代わった旅の目的
■ 旅行する前にレストランを予約 さらにアメックスの調査に興味深い数字がある。 先述のアンケート回答者の81%は、旅行中に最も楽しみなことは地元の料理を味わうことと言っているのだが、そのなかでも特定のレストランを訪れることを目的に旅行を計画する観光客が37%もいる。 そのうち64%は旅行前に、自分たちが行きたいレストランへ予約を入れているのだという。 かつては旅行や観光といえば、絶景やスポーツ、神社仏閣に代表されるその土地の風土を楽しむために出かけるものだと私は思っていた。 そして食の重要度は、せっかく地方に出かけたのだから、一緒にその土地の美味しいものも味わおうという程度だったろう。 しかし、いまや主従は逆転。 地方の美味しいレストランに行きたいがために旅行を計画し、せっかく行くのだからその地方の風土も一緒に楽しもうという旅行者が増えているのである。 この連載の第1回で言及した、10月22日放送のNHK「クローズアップ現代 『美食』が日本を救う!? ガストロノミーツーリズム」に登場した中国系女性のジョスリン・チェンさんも番組中で、「私たちは食のために旅をします。食事は私たちの旅の一部ではなく、目的です」と話していた。 彼女は「もう日本には100回以上来ている」と答えるフーディー(食いしん坊)だから、一般的な文脈で語るわけにはいかないかもしれないが、こうした傾向は、特に「新富裕層」と言われている若い世代に強いと言われている。 彼らは団体旅行ではなく、個人客として自分の行きたいところを旅し、そのためには情報収集に余念がない。 そして「いままで誰も行ったことがないようなところに、いち早く行く」ことに価値を求めている。 だから、地方自治体は豊かな地方の食材に注目してもらい、インバウンドの、特に富裕層に来てもらいたいから、こぞって「ガストロノミーツーリズム」に力を入れているのである。 だが、豊かな食材があれば地方にインバウンドが訪れるほど一筋縄ではないことも、数字に現れている。 それについては次回に触れたい。
柏原 光太郎