【解説】 中国で相次ぐ無差別襲撃、「社会への報復」か 車暴走事件で議論再燃
ケリー・アン、BBCニュース 中国南部・広東省珠海で35人が死亡した車の暴走事件を受けて、中国ではまたしても、公の場での無差別襲撃事件が話題になっている。そして、同じような事件が近ごろ頻発していることを多くの人が気にする一方で、当局は事件に関する議論を検閲し続けている。 これは果たして、「社会への報復」攻撃という現象なのか――。ソーシャルメディア上で、多くの人がこのことを議論している。「社会への報復」とはつまり、個人的な不満を抱える人が赤の他人を攻撃することで恨みを晴らそうとする行動で、最近相次ぐ無差別襲撃事件はそれが原因なのかと。 警察によると、11日夜に珠海で体育施設で多くの利用者を次々と車ではねていった男は、元妻との離婚調停をめぐる不満から事件を起こしたとみられている。 中国の公共の場で起きた暴力行為として、今回の事件はこの数十年間で最悪の事態だという。しかし中国ではここ数カ月、襲撃事件が相次いでいる。10月には上海の小売店ウォルマートで刃物を持った人物が買い物客らを襲い、死傷者が出た。同月末には北京の小学校の近くでも刺傷事件が起きた。 珠海での事件を国民の多くが強く非難する中、習近平国家主席は犯人に「厳罰」を科すと誓った。車を運転していた62歳の男は逮捕されたものの、警察によると、自分で負ったけがのため昏睡状態になっている。 ■深刻な社会問題の兆候か 中国のソーシャルメディアでは多くの人が、犯人の行動にショックを受けたと書いている。また、この事件は、いっそう深刻な社会問題の症状なのではないかと尋ねる声も出ている。 中国のソーシャルメディア「微博」(ウェイボー)で拡散された投稿には、こう書かれていた。「自分の家庭がうまくいっていないから、社会に報復するなんて。罪のない大勢の人の命を奪っておいて、どうやって心が安らぐというのか」。 メッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」のユーザーの1人は、「働けるのか不安な人が大勢いて、生きていくだけでも大変だという人が大勢いるなら(中略)社会に問題や敵意や恐怖があふれるのは、当然のことだ」と書いた。 別のユーザーは、「これほどたくさんの弱者への無差別(攻撃)を助長してきた、根深い社会的(要因)を検証すべきだ」と書いた。この投稿は広く共有された。 中国では今年に入ってから、複数の襲撃事件が報告されている。その中には、2月に山東省で起きた刃物と銃による無差別殺傷事件も含まれる。この事件では少なくとも21人が殺害された。 10月には北京の有名小学校近くで刃物による襲撃事件があり、5人が負傷した。9月末には、上海のウォルマートで3人が死亡、複数が負傷する事件が起きた。 ■母親の仲良しが…… 珠海の事件に関連する多くの投稿やコメント、記事はここ数日、検閲の対象になっている。政治的にセンシティブな話題とみなす議論を、当局は制限しているのだ。中国では通常、注目される事件に関連するソーシャルメディアの投稿を、検閲当局が直ちに削除する。 それでも、今回の事件について赤裸々な思いを打ち明けるさまざまな投稿が、オンラインで広く拡散し続けている。そうした投稿をしたアカウントについて、BBCは独自に検証できていない。 家族ぐるみで仲良しだった人が殺されたのだという投稿があった。被害に遭った女性は、ウォーキング仲間と一緒に夕方の運動に出かけて、事件に巻き込まれたのだという。 「あれほど仲良しだった友達を失って、うちの母親は受け止められていない。母の悲しみを目の当たりにすればするほど、冷酷な犯人に腹が立って仕方がない」と、このユーザーは書いた。 ■報道規制に非難 このほかソーシャルメディアでは多くの人が、中国メディアがこの事件を「ほとんど報道しない」一方で、珠海で同時期に開催された軍事航空ショーの方が多く報道されていることを非難した。 「権力者にとって、飛行機の方が人命よりも重要なんだ」という投稿もあった。 中国の複数の報道機関はBBCに対して、事件発生直後は数時間の間、この件について報道しないよう明確な指示があったと明らかにした。 その後、複数の報道機関は事件を報じたが、その大半は警察や習氏の声明に関する内容だった。 一方で中国国営放送・中国中央電視台(CCTV)は、13日の昼の放送で事件には触れなかった。報道内容は習氏が予定している南アフリカ訪問や、珠海での航空ショーの話が中心だった。 13日の中国日刊各紙も、公共の場での無差別襲撃事件として近年最悪とされるこの事件について、主要面で伝えなかった。 オンライン上で広く拡散された別の投稿には、投稿者の母親が今回の事件で重傷を負い、病院の集中治療室で治療を受けている最中だと書かれている。 この投稿者によると、母親が助かるかどうかは不明で、襲撃を目撃した父親は打ちのめされているという。「父親は傷ついている。それでも、電話や、母のことを気にかける全ての人に冷静に対応しようと精一杯やっている」と、この人は書いた。 ソーシャルメディアでは、事件発生から数時間以内に十分な情報が得られなかったことの批判も相次いだ。 「発生から10時間がたっても、死傷者数の発表も警察からの声明もなかった」 ほかのユーザーたちも、当局が死者35人と発表するのに24時間もかかったことを指摘している。微博では、死者数に関するハッシュタグが検閲対象になっている。 (追加取材:ファン・ワン) (英語記事 'Taking revenge on society': Deadly car attack sparks questions in China)
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