「沖縄密約文書」不開示に 情報公開の立証責任とは? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
国の不開示決定受け情報公開訴訟
その後、密約文書の情報公開請求を行った西山氏らに対して外務省と財務省は「文書は存在しないので開示できない」とする決定を通知しました。そこで西山氏らがこの決定を取り消す裁判を起こしました。吉野氏も証人として出廷し密約文書を外務省が「ある程度保存していた」と証言します。国側も「密約はない」から「探したけど見つからない」とあるなしについての言及を差し控える主張へと変化しました。 2010年4月、東京地裁は西山氏ら原告全面勝訴の判決を下し不開示は違法で開示せよとしました。ポイントは (1)「文書が存在する」と証明する責任は請求者(西山氏ら)にある (2)過去にあったと証明できたら、行政機関は「今はない」と証明できなければ「ある」と推し量れる (3)廃棄されていたとしたら「廃棄した」と証明できない限り「ない」との主張は認めない この判決のユニークなのはオーソドックスな(1)を受け継ぎつつ、「なくなった」(廃棄や移管など)の証明は行政側の責任であり、それを行わない限り「ある」と推認するという点です。 控訴を受けて2011年9月の東京高裁判決は文書開示を認めた地裁判決をひっくり返します。ただ内容は必ずしも原告敗訴とは言い切れません。地裁判決の (1)「文書が存在する」と証明する責任は請求者(西山氏ら)にある (2)過去にあったと証明できたら、行政機関は「今はない」と証明できなければ「ある」と推し量れる までは同じ。つまり密約文書が「あった」までは認めました。違うのは (4)「探したけど見つからない」という財務省と外務省の調査は信用できる (5)ゆえに廃棄や移管でなくなった可能性がある。要するに今が「ない」のだから開示できない との論法に変わったのです。国民の公共財である公文書を役所が勝手に廃棄した可能性を指摘しておきながら、それについての言及はありませんでした。調査が信用できる根拠は何か。そもそも本当に「ない」のかという疑問も残しつつ上告され、最高裁判決が2014年7月に出され確定しました。 今度は高裁判決の (1)「文書が存在する」と証明する責任は請求者(西山氏ら)にある (4)「探したけど見つからない」という財務省と外務省の調査は信用できる (5)ゆえに廃棄や移管でなくなった可能性がある。要するに今が「ない」のだから開示できない についてはほぼ維持して、地裁判決の(2)(3)を行政機関が「今はない」としたら、「ある」と請求側が証明する必要があると(1)のハードルを高くする初めての判断を示しました。地裁・高裁が限定的に認めた行政機関の立証責任を認めなかったのです。極めて国側へ有利な判決といえましょう。