モーリーが解説。環境対策や脱原発が格差社会を直撃し、ドイツ東部で極右が躍進した背景
『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、ドイツ東部の3州で極右政党が大躍進した背景について考察する。 * * * 9月にドイツ東部の3州で行なわれた州議会選挙で、難民・移民への強硬姿勢を鮮明にする極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が大躍進しました。 ナチスの負の歴史から人権問題に敏感なはずのドイツで、所属政治家がナチス肯定ともとれる発言や、イスラム教徒への差別発言を繰り返すAfDが州議会第1党を争う(チューリンゲン州では1位、ザクセン州とブランデンブルク州では2位)ほど勢力を拡大した要因のひとつは、ドイツ国内に横たわる大きな経済格差だといわれます。 東西冷戦時代は共産主義経済下にあった旧東ドイツ地域は統一後、自由主義経済による発展が期待されたものの、すんなり進みませんでした。東ドイツ時代にはすべて国営だった企業を市場経済の原理で急激に民営化しましたが、結果は中途半端で、東部地方のひとり当たり労働生産力は今も西部に比べると低いままです。 一方で、資本主義の荒波、グローバル化がもたらす負荷は、常に西側よりも東側に重くのしかかってきたといえます。ひとり当たりの貯蓄率や資産が低いため、リーマンショックによる打撃は東部のほうが深刻でしたし、高学歴者や若い世代がより良い雇用を求めて西に引っ越してしまうことで、人口減と高齢化にも直面しています。 そんな中、ドイツ政府は2011年の福島第一原発事故を受け、早々に脱原発方針を決定しました。当初は再生可能エネルギーの技術が発展するまで一時的に石炭火力依存を高める想定でしたが、2010年代中頃からはCO2削減もマストテーマとなり、「脱原発」「脱石炭」の同時進行という道を進んでいます。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が高騰し、政策見直しを訴える声が強まっても、この基本方針に変わりはありません。 ただし、中長期的な視点に立った「正しい」エネルギー政策は、短期的には格差社会を直撃しています。例えばドイツ東部では世帯当たりの光熱費が全国平均よりも3%高く、一方で購買力は全国平均より16%低い。一時は政府主導でソーラーパネル産業を通じて雇用を拡大する取り組みもありましたが、近年は中国製の競合商品に淘汰され、太陽電池モジュールを生産するソーラーワット社はドイツ東部ドレスデンにあった生産拠点を中国に移すと発表したばかりです。 急速なエネルギー転換による産業構造の変化、そして電気代の高騰は、豊かな人よりも貧しい人、西部よりも東部に、より深刻な影響をもたらしているのです。こうしたことから、旧東ドイツ市民の間ではかつて以上に強い不公平感が広まっており、「脱炭素」政策には懐疑的な世論が優勢です。これが移民反対と相まって、AfDへの追い風になっているようです。 私個人は、人道のために難民を受け入れるドイツの判断は正しく、美しいと感じていますし、環境対策はもはや待ったなしだとも考えています。ただ、未来のための脱炭素、欧州統合の理想や人道主義といった「きれい事」を前にして、社会的・経済的に厳しい状況に置かれた人の多くが「われわれの生活や治安を犠牲にするな」と強い憤りを抱くようになったという事実も、社会を構成するすべての人が真正面から受け止める必要があるでしょう。 構造上の問題を背景に極右ポピュリズムが躍進するというトレンドは、ドイツに限った話ではないと思います。アメリカや日本でも極右のアピールは強く、脱炭素、多様性、移民に対する根強い反発を煽って拡大させる政治手法が浸透しています。 リベラル側から「差別的だ」「時代遅れだ」「不寛容だ」などと一刀両断したくなる気持ちもわかりますが、それだけでは溝は埋められず、むしろ深まるばかりです。その解決策は単に「正しい」議論を尽くすことだけでなく、どこかに横たわっている「不公平感」や「敗北感」をあぶり出して、変化を進めたい側と拒む側との間でなんらかの折り合い、つまり「ディール」を取りつけることが必要なのでしょう。