【解説】“紀州のドン・ファン”殺害事件 元妻無罪判決の理由は…覚醒剤“誤摂取の可能性否定できず”
──飛ばしたというのは、どういうことが考えられるのでしょうか。 本来、起訴できているのは、覚醒剤は殺人の凶器になりうるものなので、その凶器を入手して、被害者のところまで持ち込んだと立証できることを前提としている。ところがその前の段階の、覚醒剤の取引さえなかった可能性があるという認定ですから、そもそも事実認定で、起訴の一番大きな根拠が飛ばされてしまいました。 ──覚醒剤取締法違反の罪についても無罪判決だった、そこも驚きだったという見解でしょうか。 その通りです。覚醒剤がポイントですから。 ──検察の求刑としては無期懲役でしたが、検察側はいま、どのように受け止めていると想像できますか。 可能性としてはありえるけど、おそらく無罪は予想していなかったと思うので、地検の現場をひっくり返すような騒ぎになっていると思います。これから、高検、最高検といって協議していくということですから、検察としては非常に大きな衝撃を受けたと思います。
続いて、無罪判決の理由についてみていきます。 ●多額の遺産など動機となりうる疑わしい事情はあるものの、覚醒剤を摂取させたと推認することはできず、野崎さんが誤って致死量を摂取した可能性は否定できない。 ●犯罪の証明がないので「無罪」。 ということでした。 ──亀井さん、この考えでよろしいでしょうか。 そうですね。状況証拠はいくつかありましたが、1つの状況証拠では殺人は推認できない、全部を合わせてもまだできない、というようなことが1つ。それから他殺ではなくて、事故死である可能性を捨てきれないということで、無罪になったということです。
──今回、検察側は20人を超える証人の証言などで状況証拠を積み重ねました。これでも無罪になるということですね。 これが確定するのであれば、それが前例になりますから、検察の直接証拠のない状況証拠の積み上げ立証について、もう一度考え直さなければいけないぐらいの衝撃を与える事案だと思います。 ──須藤被告は殺人の罪だけでなく覚醒剤取締法違反の罪にも問われていましたが無罪判決でした。証人尋問のなかにも売人の話があったと思いますが、なぜこのような結論に至ったのでしょうか。 おそらく考え方としては、密売人が2名いて、須藤被告も覚醒剤の取引をやろうかというところまでは供述していて、会っているわけです。通常であれば、覚醒剤の取引に関する実態がないという判断はなかなかしにくいのですが、おそらく裁判所の判断は、(1人目の)密売人は信用できない、次の密売人も信用できない。1つも信用できないので、みんな信用できないので、信用できないものは、なかったことになる、そのような理屈だと思います。