会社がつぶれる兆しを示す目印 素人でもわかる「死相」 危ない「倒産予備軍」の見抜き方(下)
価格や取引条件の変更は社内事情の揺れ動きを示す
価格や取引条件の変更は社内事情の揺れ動きを示すことがある。急に運転資金が必要になって、本来の相場よりも格段に安い価格を提示するようなケースは珍しくない。決算前の時期に増えるオファーだが、不可解な時期の条件変更は裏側の事情が気になるところだ。 内藤氏が警戒すべき目印の一例に挙げるのは「納期の遅れ」。通常の調達や進行管理が難しくなっている苦境を示すからだ。過去に納期トラブルのなかった取引先の場合、信頼を損ねるのを覚悟で納期を遅らせるほどの状況になっている可能性がある。 働き手のモチベーションも判断材料になり得る。やたらとくたびれた様子や、勤め先への愚痴などには、隠しきれない本音や実情がにじむ。「頻繁に通っていれば、相手の表情や声質の変化に気付きやすくなる」と、内藤氏は頻度な訪問の大切さを説く。
まだある断末魔企業の「死相」
企業の強みが弱みに転じることがある。例えば、カリスマ的な経営者の死去や退任。それまでリーダーに頼り切っていた反動もあって、屋台骨が揺らぎかねない。リーダーの高齢化に伴い、判断や求心力が怪しくなるケースも起こり得る。 M&A(合併・買収)をきっかけに企業体質や経営方針が様変わりするリスクは小さくない。先の船井電機でも3年前に買収を受けていた。経営建て直しにつながるM&Aも多いので、見極めが難しいが、前編で取り上げたような収益性や一貫性の疑わしい新規事業への着手があれば、警戒度を高めてもよいだろう。 コンプライアンス(法令順守)の問題から経営が傾く事案が相次いでいる。SNSをきっかけに「炎上」が広がり、訴訟や不買につながるおそれもある。ソーシャルグッドな企業体質を望む流れが強まっていて、そうした面で課題を抱える企業はリスクをはらむ。 倒産しそうな企業を見抜くには、ちょっとした変化に気付く観察眼が求められる。例えば、これまでは応接室に通されていたのに、今回はロビーや会議室といった変化は応接室を使いにくい状況をにおわせる。 近年の粉飾は「手口が一段と巧妙になっていて、専門家でも数字が本当かどうかを確かめにくい」(内藤氏)。ただ、数字以外の情報と重ね合わせれば、実情が浮かび上がりやすくなる。 内藤氏が勧めるのは「ギャップを手がかりに使う」という読み解き方だ。例えば、競合他社と見比べた際の不自然なギャップ。頭抜けた急成長の裏には「奇妙なからくりが潜んでいることもある」(内藤氏)。 論理的な整合性も手助けになる。当たり前の筋道に沿った結論になじまない品質や条件、業績などは疑ってかかる余地がありそうだ。競合他社や業界相場との比較は客観的な判断に導いてくれる。 「自分だけで抱え込まないほうがよい」と、内藤氏は社内やプロの協力を仰ぐ取り組みを促す。社内に法務や財務のサポートを受けられる仕組みがあれば、知恵を借りてみるとよい。帝国データバンクのような専門家には知見や情報が集まっている。懸念が強いケースでは調査や情報提供を求めると、リスクヘッジに役立ちそうだ。 危うい企業とは距離を置くのが賢明だ。取引先が1社では、手を引きにくくなってしまう。段階的にでも取引先を広げることによって、「1社への依存度を高めすぎず、取引先のリスク分散を図っておきたい」(内藤氏)。 倒産に巻き込まれると、取引先を失い、債権回収に努める事態に陥る。「社内では取引先管理の面で評価が下がりやすい。焦げ付いた債権を回収するような後ろ向きの仕事は生産性が低く、業績にもマイナス」(内藤氏)と、想像以上にダメージは大きい。避けるに越したことはない。