【スクープ】創業270年超の名門百貨店が私的整理へ!「お手盛り」再生計画に疑問の声も
鹿児島県唯一の百貨店である「山形屋(やまかたや)」が借入金の返済に行き詰まり、グループ会社16社とともに私的整理の一種である「事業再生ADR手続き」に入っていることがわかった。複数の関係者が認めた。(東京経済東京本部長 井出豪彦) ● 事業再生ADR手続きを 申請したのは昨年12月 山形屋は宝暦元(1751)年、出羽国山形出身の源衛門により創業された。安永元(1772)年に薩摩藩の商人招致を知り、鹿児島城下木屋町(のちの金生町)に呉服店を構え、「山形屋」と称したという。大正5(1916)年にルネッサンス式鉄骨鉄筋コンクリート(地下1階~地上4階)の新店舗が落成し、翌年「株式会社山形屋呉服店」として法人化された。 地元では押しも押されもせぬ名門企業である。現在の会長である岩元純吉氏(56)と社長である岩元修士氏(54)は兄弟で、共に慶応大学を出て伊勢丹(当時)で修業した。ただし、三越伊勢丹ホールディングスとの資本関係はない。 周知の通り、地方都市で百貨店の経営環境は厳しい。鹿児島では2009年に三越が撤退した。クルマ社会では大規模な駐車場を備えた郊外型ショッピングモールの集客力が圧倒的だ。さらに20年からの新型コロナウイルス禍がダメ押しとなり、業績の悪化から資金繰りがつかなくなった。 関係者によれば、23年5月にメインバンクである鹿児島銀行が主導する形でバンクミーティングを開催し、借入金の返済を一時停止して、事業再生ADR手続きに入る方向性が銀行団に示されたという。翌月以降、鹿銀が優先弁済を受ける権利のある「プレDIPファイナンス」として当座の運転資金約25億円を貸し出した。その後、23年12月に経産省認可の第三者機関である「事業再生実務家協会」に正式にADR手続きを申請し、受理された。
● 今月の債権者会議の結果次第で 法的整理に移行する可能性も 申請したのは、山形屋と資産管理会社である「金生産業」(鹿児島市)、グループで百貨店業の「川内山形屋」(薩摩川内市)、「国分山形屋」(霧島市)、「宮崎山形屋」(宮崎市)、「日南山形屋」(宮崎県日南市)、さらに食品スーパー子会社の「山形屋ストア」(鹿児島市)や飲食店子会社の「ベルグ」(同)など計17社。 23年2月期時点で17社の売上高の合算は約740億円、有利子負債の合計は約360億円で、対象債権者(取引金融機関)の数は鹿銀を筆頭に全部で20社弱という。 その後、銀行団にはデューデリジェンスの結果報告を経て、今年4月の債権者会議で5カ年の「事業再生計画案」が示された。そして今月下旬に予定される次回の債権者会議で事業再生計画案の決議が行われ、対象債権者すべての同意が得られれば、成立となる。万一、マレリホールディングスのときのように1行でも反対に回れば、法的整理に移行することになる。 関係者によれば、事業再生計画案の骨子は、DES(デット・エクイティ・スワップ=債務株式化)40億円とDDS(デット・デット・スワップ=借入金の劣後ローン化)70億円を実施し、残る250億円の借入金についても大部分は5年間返済を棚上げするというもの。スポンサーはつかず、自主再建を目指すとしている。 グループの合理化・再編を通じてホールディングス体制に移行し、鹿銀から2人、「ルネッサンスキャピタルグループ」(東京都港区)から1人の出向者を受け入れるという。ルネッサンスは地域の事業再生に強いファンドの運営会社として知られる。山形屋の会長と社長は経営責任を取って当面報酬を全額カットするが、退任はしない方針だ。