「通勤電車には"体にいい席"がある」…精神科医が"地下鉄以外"の電車で推奨する行動とは
■6.仕事 ---------- 効率が上がるのはどっち? A まず情報収集 B いきなり頭を使う仕事 ---------- 朝からSNSを見ないほうがいい理由 「まだ脳が疲れていない朝はゴールデンタイム。出勤直後は情報収集やメールチェックより、集中力を要する仕事から始めるべき」という説をご存じでしょうか。「朝はゴールデンタイム」なのは、朝型の人が増えてくる中高年にとっては真実だといえます。 たしかに、頭を使う仕事は午前中のうちに済ませたほうがいいでしょう。中高年になると疲労を感じる時間帯が若いころより前倒しになってきます。夕方になると目もかすんでくるし、頭が回らなくなってくるのが普通です。 ただし、「朝からメールチェックのような単純作業はダメ」ということではありません。未読メールをためたままでは気になってストレスになるかもしれませんから、さっさと返信を済ませるのが得策だといえます。単純作業から始めてはいけない理由はありません。 あるいは夜、疲れてイライラした状態でメールを書くと、感情的になりすぎる危険もあります。それよりは朝の冷静なうちに返事をするのが賢明です。 夜、特に深夜に感情的な対応をしてしまいがちなのは、SNSも同様です。かといって朝のクリアな脳をSNSに費やすのももったいない。「SNSはメンタルに悪影響を及ぼす」という研究結果もそろってきています。見るなとはいいませんが、朝から能動的に参加するのはやめたほうがいいでしょう。 一般的な中高年向けのアドバイスを紹介してきましたが、夜型の人が多い10代、20代のゴールデンタイムは朝とは限りません。それ以上の年齢でも、私の見たところ、クリエイティブな職業には夜型の人が多いようです。そのほうが効率よく働けるというのであれば夜型のライフスタイルでも仕方がありませんが、極端に日光を浴びない、運動をしない生活を送っていると、メンタルヘルスへの悪影響が心配です。 もし起き抜けのボーっとした脳に刺激を与えたいのであれば、SNSではなくラジオや音楽がおすすめです。小鳥のさえずりのような環境音楽やクラシック音楽でなくても、自分の好きな音楽で構いません。 ■7.通勤 ---------- 体にやさしい習慣はどっち? A 電車では立ったまま B 席があいたら座る ---------- ずっと座っていると体に負担がかかる リモートワークの職場が増えた今でも、特に首都圏の朝の通勤ラッシュは相変わらず。混んだ電車内でできることといえば、イヤフォンで何かを聞くことくらいでしょうか。 しかし「朝の太陽光は体内時計の調節に大切」という科学的事実に基づけば、車内でもできることはあります。 それは、太陽の光がさす場所にポジションをとること。駅ごとにいったん電車から降りたりして窓際の位置を確保するだけでも、体内時計を調整していることになります。地下鉄ではできないのが残念なところですが、こんなふうに考えれば満員電車の苦痛も多少は和らぐのではないでしょうか。 また、「電車では立っているだけで体幹の筋肉を使うので、いい運動になる」という言説を耳にすることがあります。しかし残念ながらこれは都市伝説。特に満員電車では心理的なパーソナルスペースを侵されるため、疲労感をおぼえます。また実際には、カロリー消費はほとんどありません。むしろ電車で立っていることで運動した気になるよりは、席があいたら座り、運動の機会を別に設けたほうがいいでしょう。 ただし最近は「座りすぎ」の弊害もよく知られるようになりました。長時間座った姿勢を続けていると下半身の血流も悪くなりますし、座ること自体、腰椎や背中の筋肉に負担をかけます。さらにスマホをずっと見ていると、首が前に出た姿勢を長く続けることになり、肩こりや頭痛の原因にも。座りっぱなしの仕事をしている人にとっては、電車で立つメリットもあります。 同じ姿勢をとりつづけることの弊害といえば、寝ているときの姿勢も大事です。日本の家は狭いため、布団やベッドの片側が壁にぴったり寄せてあることが多いのですが、そうすると寝返りを打つたびに壁とぶつかるので、反対側を向いて寝ることが多くなります。あるいは一緒に寝ているパートナーのいびきがうるさい場合も同様。いつも同じ方向を向いて寝ていると体への負担が偏るので、ときどき枕の位置を上下逆にするといいでしょう。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月15日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 西多 昌規(にしだ・まさき) 早稲田大学教授 精神科医 東京医科歯科大学卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学客員研究員、スタンフォード大学客員講師などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院教授、早稲田大学睡眠研究所所長。精神科専門医、睡眠医療総合専門医などをもつ。専門は睡眠、アスリートのメンタル・睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に『休む技術2』(大和書房)『眠っている間に体に中で何が起こっているのか』(草思社)など。 ----------
早稲田大学教授 精神科医 西多 昌規 構成=長山清子