「ただ一人、妻だけが私を“キモイ”と言わなかった」余命宣告された森永卓郎氏が身辺整理で見せた妻への愛
お金のやりくりは大変
その一方で、こんなにも妻と自分は違う価値観を持っていたのかという発見もあった。たとえば妻は肉が嫌いで、まったく食べない。 私は肉が大好物なので夕食のメニューを巡って揉めるのだ。といっても妻は、私に食欲があるのはいいことで、とにかく食べさせなければいけないと頭が働くのだろう。先日、私が「すき焼きが食べたい」と言った時は、一人用の小さな鍋を二つ買ってきて、私はすき焼き、妻は肉抜きの野菜鍋を作って一緒に食べた。「変な家だよね」と言いながらも、私は妻の配慮に感謝していたのだ。 ただ、今は食事の好み以上に大きな問題を発見したことから、妻とは距離を置くように心がけている。気づいたこととは、「妻は金融リテラシーが欠けている」という事実だ。 結婚した頃の我が家はとても貧しかった。にもかかわらず、妻が「ご近所さんがお金がないないって嘆くんだけど、どうしてそんなにお金が心配なのかな」と言っていたことを思い出した。 長男の康平も「うちは株主優待やクーポン券が使える店にしか外食に連れて行ってくれない」と不満を漏らしていた。 我が家の収入が劇的に増えて、生活に余裕ができたのは、結婚して20年も経ってからだ。 それまで、妻や康平がお金の苦労を感じなかったのは、私が綿密な資金計画を立てて資金繰りをつけ、家計破綻を回避してきたからだ。我が家の家計は、そもそも高級なレストランで外食ができる状態ではなかった。クーポン券を使って外食するだけでも、十分なぜいたくだったのだ。 ただ、私が資金管理をすべて担ったことで、妻は金融に疎くなってしまった。もともと無駄遣いを一切しない人なのだが、それと資金管理ができるかどうかは別問題だ。 このままだと、私が死んだあと、税金の支払いや銀行や証券会社との取引、クレジットカードの管理や、さまざまなネット取引など、すべての金融取引で、妻は行き詰ってしまうだろう。詐欺師に騙されてしまうかもしれない。 だから妻には、とりあえず、すべての事務仕事を丸投げすることにした。 「アレをやっておけ」「自分でやれ」と指図する私に対して、妻は「顎で使われている」「私のことを使用人だと思っている」と怒るのだが、何が真の優しさかと考えた時には心を鬼にするしかない。