どんな屈強な男でも必ず子猫のような弱音を吐く…米最強部隊を作るパワハラ、モラハラ当たり前の地獄の訓練
■教官の役割は「鍛える」ではなく「間引く」 ただ、ほとんどの人はその素質を持っていない。ヘルウィークが始まるまでに、もう40人以上がやめていた。BUD/Sでは、やめる者は真鍮の鐘まで歩いていって、鐘を3回鳴らし、ヘルメットをアスファルトの地面に置いて去る、って決まりがある。 鐘を鳴らす習慣が始まったのは、ベトナム戦争の時代だ。当時はその場を離れて兵舎に行くだけだったが、強化訓練中にやめる訓練生が多すぎて、誰が残っているかがわからなくなった。そこで鐘を鳴らす方式が始まり、それ以来この鐘は「やめる」って事実を訓練生自身が受け入れる儀式になっている。 やめる者にとって、鐘の音は「ケジメ」だ。でも俺にとっては、自分が「前進している」証しに聞こえた。 俺はサイコ(編註 担当教官の一人)を嫌っていたが、やつの仕事にケチをつけるつもりはないよ。サイコたち教官は、群れを「間引く」ためにいる。彼らは弱いやつらに用はなかった。 サイコはいつも俺や、俺よりデカい訓練生を目(め)の敵(かたき)にして、弱みをあぶり出そうとした。小柄な訓練生のタフな強者(つわもの)たちもだ。クラスには、アメリカ東部や南部、西部の労働者階級や富裕層の精鋭たちに交じって、俺みたいな中西部の田舎者が少しと、テキサスの牧場育ちがたくさんいた。 ■パワハラ、モラハラの狂騒曲 BUD/Sのどのクラスにも、テキサスの力自慢が大勢いたね。シールズにこれだけの人材を送り込む州はほかにない。バーベキューに秘密があるんだろうな。でもサイコは誰もひいきしなかった。どこの出身のどんな訓練生にも、影のようにしつこくつきまとった。俺たちをあざ笑い、怒鳴り散らし、人前でなじり、脳内にまで潜り込んで内側から壊そうとした。 それでもヘルウィークの始まりは楽しかったよ。「ブレイクアウト」(ヘルウィーク幕開けの、爆破を伴う派手な演習)の狂気の爆発と銃撃、怒声の中では、誰も迫りつつある悪夢のことなんか考えない。戦士の聖なる通過儀礼に投げ込まれて、アドレナリンでハイになっている。舞い上がったままグラインダーを見回し、「おお、ヘルウィークだぜ!」と喜ぶ。ああ、でも現実は、全員がここでとんでもない目に遭わされるんだ。 「これで頑張ってるつもりだとぉ?」と、サイコは吐き捨てた。 「おまえらはBUD/S史上最低のクラスになりそうだな。せいぜい恥をかくがいいさ」 サイコはしごきを堪能していた。俺たちをまたぎ、間を歩き、俺たちの流す汗や唾液、鼻水、涙、血の上に、ブーツの靴跡を刻みつけた。やつはタフであることを自負していた。ほとんどの教官がそうだ。なぜって、彼らはシールズだからだ。それだけで優越感に浸っていた。「おまえらは俺のヘルウィークの成績の足下にもおよばんぞ、それだけは言っておく」