“幻の本”『ふれる』にふれる その2 空羽ファティマ[絵本作家]
先月号は絶版になっている三浦春馬さんの幻のエッセイ&写真集としてファンが喉(のど)から手が出るほど求めていた『ふれる』を特集した。今回はその2。来月号のその3に続く。 海外でも積極的に仕事したいと望む春馬さんが、 「そのために日本の伝統的な踊りの知識や文化を知らない自分のままではダメだ。和の心を学ぶことが役者の自信になり演じる役の幅も違ってくる」と日本舞踊の渡辺保先生に学ぶ。 先生曰(いわ)く、 《実は日本は独自のものは一つもない。寿司は東南アジアがルーツ、着物も中国や韓国からきたもの。固有のものがないのは極東の島国故でいろんなものがここに流れつき溜まり、発酵し時間と共に変化した日本は海外からの原料を加工してまた外へ売る加工の国。日本舞踊もそうやって発酵させたもので「芸」の概念があることが特徴。何かの役を演じている時は「私は何々に扮しています」と観客に知らせるのが芸。この点は自己を消して演じる現代劇とは正反対》。これを聞いた春馬さんは衝撃を受け、「寿司や天ぷら、着物や桜は日本のオリジナルと思っていたが加工、発酵させてどのように誇れるものになっていったか?に関心を持つ」と答える。 また、日本舞踊は腰をバネにして上半身を自由にしないと“舞うことでキャラクターが変化する変身”ができないと聞き、「腰という字は月に要と書くじゃないですか。踊りに限らず何か行動を起こす時は腰が一番大切だと常々思っているんです。腰を使えなかったら人間は動くことさえできない。生きるために腰は絶対必要」。 「渡辺保先生から日本舞踊の話をお聞きした時、お茶の話になって、腰のきちんと入ってない人がたてたお茶はおいしくないとおっしゃっていました。 それがすごく面白いなと思って。同じ人のたてたお茶は毎日飲んでいるとその人の日々の健康状態がわかるようになるとおっしゃっていました。 おいしいお茶をたてるには体の動きはもちろんだけど、心の持って行き方が大事なのだそうです。つまりそれは無心になることらしいのだけど、『こんなふうにやったら、うまく見えるんだろう』などと思っているうちはダメだと聞いて、演技と共通している部分が多い気がして、ぜひ体験してみたいと思ったんです」 ……と「腰が何より大切!」と春馬さんは語っていたから彼のファンは腰痛予防のためにも腰のトレーニングをしよう! それにしても、この本を読むと理論家で物事を深く考え、真面目で勉強家なんだなあ、と改めて感じる。それが彼という人であるが、そのシリアスさが彼を追い込め、また成長もさせたのだろうが、「こんなふうにやったらうまく見えるだろうな」と、ついつい思ってしまう自分に嫌悪したのだろう。