テレビ放送と動画サービスは “完全に相対するものではない”。A-PABがテレビ視聴動向を調査
一般社団法人 放送サービス高度化推進協会(A-PAB)は、2024年9月に実施した「テレビ視聴動向リサーチ」市場調査結果を発表した。 本件は、2016年から定点的に実施していた「4K・8K放送/テレビ放送 市場調査」を名称変更し、新しい調査項目を加えたもの。これまで測っていた4K8K衛星放送と関連事項に対する認知・理解度だけでなく、放送番組コンテンツや視聴機器などについても調査することで、テレビやテレビ番組視聴の全体動向をより詳しく確認したという。 今回の調査結果では、主に利用者から見たテレビ放送の必要性や、インターネットで番組や動画を見る際の機器による違い、4K8K衛星放送の認知および満足度などが確認できたとのこと。 ■テレビ放送と配信サービスの併用の普及がすすむ テレビ放送や動画サービスについての設問では、回答者全体の7割強がテレビ放送を「なくてはならない」「あった方がよい」と回答。いずれの放送・サービスも前回から大きな変化はなく、以前と同様に、動画サービスと比べるとテレビ放送がポジティブに捉えられていると説明する。 一方で3年前の調査からの推移を見ると、必要性(「なくてはならない」「あった方がよい」合算値)は全体的に緩やかな低下傾向に。合わせて、テレビ受像機の利用方法およびテレビ番組の視聴方法が多様化していること、デバイスごとに求められている番組の尺(長さ)が異なることも調査結果から浮き彫りとなり、A-PABでは「時代の変化に合わせてテレビ放送・コンテンツに関する対応が必要」だと推察している。 また、「各動画サービスについて『なくてはならない』と回答した層ではテレビ放送の必要度は低いのか」という課題の調査のため、当該層におけるテレビ放送のポジショニングを確認。 すると、いずれの層もテレビ放送に関して「なくてはならない」が半数を超えており、「あった方がよい」との合算値(ポジティブ計/必要度)は個人全体よりもむしろ高いことが明らかになった。これによりA-PABは「テレビ放送と動画サービスは完全に相対するものではない」と結論づけた。 ■環境が整えばより大きな画面での視聴が優勢 番組/動画を見るデバイスについての設問では、「若年層は動画を見る事をスマートフォンの小さな画面で十分だと思っているのか」「環境さえ整えば大きなデバイスで見るのか」について検証。性年代別に「10分以上の尺(長さ)の動画を見るデバイス」を確認したところ、どの層でもスマートフォンで見る方がCTV(Connected TV、ネットに繋がっているテレビやモニター)で見る場合よりも優勢で、とくに若年層でその傾向が顕著にみられたという。 一方で、スマホとCTVの両方を自由に使える回答者に限定すると、男性は30代以降、女性は40代以降の年層で、CTVでの視聴割合が多くなる。男性の20代および女性の30代ではスマホで見る派が優勢なものの、これらの年層でも7割弱がCTVでの視聴を併用。また年齢層を問わず、自由に使える機器があれば6 - 7割がCTVで動画を視聴すると回答した。 このことからA-PABは、自由に使えるデバイスがあれば、より大きな画面で動画を視聴する人が多い傾向があると分析した。 ■スマホ・タブレット視聴は短尺が求められている さらに、近年は短尺動画の流行やタイムパフォーマンスを重視する傾向が見られることを受け、「テレビ番組を長いと感じる人がいるのではないか」という仮説を検証。テレビ番組の放送時間において “長い” と感じる尺(長さ)を、テレビでの視聴とスマホ・タブレットでの視聴とで比較した。 すると番組のジャンルによって基準が異なるものの、スマートフォン・タブレットで視聴しているユーザーの方が、短い尺を求めていることが明らかとなった。ジャンル別に見ると、元の放送の長さも影響していると考えられるが、「ニュース・情報番組」「アニメ」で短い尺の需要が多い傾向が表れたという。 またテレビで視聴する場合において、何分から “長い” と感じるのか割合の分布を調べたところ、ボリュームゾーンは31分から2時間超までと、番組のジャンルごとにバラつきがあった。「2時間超」という回答が多かったジャンルはスポーツ中継で、「長いと感じることはない」という回答も他ジャンルより高く2割強を占めている。これについてA-PABは、スポーツは試合・競技の長さに準ずるため、あるいは試合に集中視聴するため、時間を長いと感じることがない視聴者が一定数存在すると推察している。 もう一方のスマホ・タブレット視聴の場合では、すべてのジャンルで「31分 - 1時間」が “長い” と感じるボリュームゾーンとなっていた。「長いと感じることはない」はどのジャンルの番組でもテレビで見る場合より低く、スマートフォン・タブレット端末で見る際は、短い尺の番組が求められていることがわかる結果となった。 タイムパフォーマンスに関連して、倍速視聴(早見)の利用率についても調査された。早見を「いつも」あるいは「たまに」行っている割合は、今回選択肢として用意したジャンルではいずれも2割台に留まった。もっとも早見されているジャンルは「ドラマ」で約3割。反対に早見されることが少ないジャンルは「ニュース・情報番組」「スポーツ中継」「音楽番組」となっており、A-PABではこの理由として、そもそもリアルタイム視聴されることが多いジャンルだから、音楽などじっくり楽しみたいものは早見されにくいから、といった可能性を挙げた。 ■4K・8Kオリンピック放送の満足度は驚異の9割超え 4K・8K衛星放送に対する認知度については、2023年2月に実施された前回調査と大きな差は見られなかった。視聴経験・満足度も同様で、視聴経験者の「画質・臨場感」の満足度は9割弱と高水準をキープしている。 2024年夏に開催されたパリオリンピックを4K・8K放送で視聴した方々から感想を集めたところ、「映像がきれいで見入ってしまった」「臨場感がありリアルで見ているような迫力があった」など、画質のよさや臨場感の向上から、より一層楽しめたという意見が寄せられたとのこと。「非常に満足した」「満足した」の合算値(満足した計)は9割超えと、非常に高い結果となったことが述べられた。
編集部:松原ひな子