ひろゆき、中野信子と脳を科学する⑨ どうすれば幸せになれるのか? 脳科学的に教えて!【この件について】
ひろ 冷戦が終わった頃、「21世紀は戦争がなくなって人類は平和を築くんだ」と思っていたんです。でも、ふたを開けてみるとむしろ戦争が増えている気がします。 中野 結局、人間は平和や幸せよりも、不安や危機を生み出す仕組みを優先しているのかもしれませんね。 ひろ そう考えると、日本ってどうなんですかね。島国として守られている部分があるとはいえ、ロシアと中国のような大国や、北朝鮮に囲まれている。 中野 でも、私は日本は意外としぶとく残るんじゃないかと思います。歴史を見てもそう感じます。例えば、対馬を治めていた宗氏という大名家の話が面白いんですよ。この家はバイリンガルで、朝鮮語と日本語を話せる人たちがいました。戦国時代から江戸時代にかけて、彼らは朝鮮王朝と江戸幕府の間で二枚舌外交をしていたんです。偽の書簡を作ったり、双方にいい顔をして、生き残るすべを徹底していました。 ひろ 外交手腕としてはトップクラスの実力っすね。 中野 日本も今後は、もう少しそういうしたたかな外交をしてもいいんじゃないかと思います。 ひろ 例えば、パレスチナの問題はイギリスの二枚舌外交が原因とされているじゃないですか。批判されることも多いですけど、結果的にイギリスの国益を守ってきたのは事実なんですよね。 中野 そうですね。どっちの国にもいい顔をすることで非難されるかもしれませんが、生き延びた者が正義だと思います。「嘘も方便」という言葉がありますけど、それを本当に方便だと思えるかどうかが重要なのかもしれません。 ひろ 日本では嘘は嫌われがちですけどね。 中野 私たちは、よく一貫性や誠実性を求められますが、それって本当に価値があるのか疑問なんです。もちろん、コミュニケーション上は「この人は信頼できる」と思われる点で価値がありますが、それ自体に絶対的な価値があるわけではないと思うんです。 ひろ むしろ、間違った判断に固執し続ける人は危険ですよね。考えを変えない人って、柔軟性を失っているわけですから。 中野 一貫性や誠実性が、柔軟な思考や変更を妨げるバイアスとして働くこともあります。結果的に、自分の首を絞めることになりかねません。 ひろ 「変わらないことが正しい」という価値観が、日本では根強くありますよね。戦国時代のように人がすぐ死ぬ時代だったら、そんな硬直的な考えは通用しなかったでしょうけど。現代のようにある程度安定した環境では、変わらないことが正しいと思われがちです。この傾向は、日本が大きく変革しない限り続くんだろうなと。 中野 「変わらないことが正しい」と考える層と「変わることをいとわない」層の間で、緩やかな分断が続くのかもしれませんね。 ひろ 分断がある中で、もし明治維新のような争いが日本国内で起こると、変わることをいとわないと思う革新派が勝つとは限りませんよね。もし坂本龍馬が現代にいたら、「俺には日本を変えられない」と言うかもしれません(笑)。そして、革新派が「日本はもう無理だ」と思えば、日本を出ていく可能性もある。 中野 ファイル共有ソフト『Winny』を開発した金子勇さんが逮捕されたように(後に無罪)、日本には新しいものを認めない土壌があります。守旧派が体制を守ることを最優先して、新しい技術や挑戦を排除してしまう。これは国としてもったいないですよね。 ひろ ライドシェアもなかなか認められないですよね。で、タクシー会社が運営する「なんちゃってライドシェア」みたいな謎の方向に進んでしまう。そんな価値観を1億人規模で共有しているのを見ると「これは絶対に変わらないな」と感じます。 中野 フランスの研究所にいたとき印象的だったのは、フランス人はみんな好きな服を着ていて流行に左右されないんです。その後、日本に帰ってきたら、みんな同じ服で似たようなメイクをして、クローンみたいだなと思いました。 ひろ 僕も大学時代にアメリカに1年留学して、帰国したときまったく同じことを感じました。それで、アメリカでも仕事ができる環境にあったので「日本が厳しくなればいつでも他国に行く」という意識を常に持っていました。 中野 それがひろゆきさんの強さや柔軟性の秘密なんですね。 ひろ かもしれないです。幸せになりたいと思っている人にどれくらい参考になったかはわかりませんけど(笑)。
*** ■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など ■中野信子(Nobuko NAKANO) 1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学大学院博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに勤務後、帰国。主な著書に『人は、なぜ他人を許せないのか』(アスコム)など 構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾