平成事件史:戦後最大の総会屋事件(4) 突然の「自白会見」と内部告発した元社員の逮捕
「聞いた瞬間、別件逮捕かと思った。野村証券事件は結果的に総会屋の小池隆一から4大証券、第一勧銀、大蔵接待汚職に波及していくが、当初は同社の「VIP口座リスト」について事情を知るとされた元社員がキーマンだった。本人は逮捕されたが、前年夏に収録したインタビューは、なんとか放送にこぎつけた。ところが、放送した後に野村証券の広報の人と話をしていたところ、『西川さん夏服でしたね』と意外なことを言われた。つまり、インタビュー時の服装から私が半年以上も前から元社員と連絡を取り合っていたことを知り、相当驚いたようだ」(西川) 元社員の取り調べの担当検事は、元社員が1996年8月に東京地検特捜部に情報を持ち込んだときに、対応してくれた内尾武博(30期)だった。約半年ぶりの再会だった。半年前、内尾は「泉井石油商会事件」の主任検事で多忙を極めていたが、元社員には丁寧に対応していた。 内尾は、かつて「リクルート事件」のNTTルートで、主任検事の佐渡賢一(23期)(のちに証券取引等監視委員会委員長)から指示され、同社の社長室から押収した段ボール箱から、重要な物証を見つけた。それはリクルート社の江副浩正会長が幹部会議で使った発言草稿だった。その内容はNTTの真藤恒会長らへの贈賄工作を示すもので、事件の突破口となった。それ以来「ブツ読みの内尾」と呼ばれていた。 「泉井石油商会事件」が一段落したことから1997年3月27日、内尾はそれまで4年間務めた東京地検特捜部から横浜地検特別刑事部の主任検事として赴任した。 着任してまもなく、特捜部の主任検事の井内顕策(30期)から、「野村の元社員からVIP口座について話を聞いてくれないか」と依頼される。 井内と内尾はともに司法修習30期、気心の知れた間柄だった。内尾と入れ替わるように井内は4月1日付で特捜部に戻っていた。 「VIP口座」について内尾には思いあたるフシがあった。リクルート事件の直前に、野村証券と大和証券のOBが「特別口座」、いわゆる「VIP口座」で特別に優遇すると客を誘い、実際には優遇していなかったという詐欺事件を立件したことがあったからだ。
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