平成事件史:戦後最大の総会屋事件(4) 突然の「自白会見」と内部告発した元社員の逮捕
井内と内尾は頻繁に連絡を取り合った。特捜部は野村証券が「総会屋」など反社会勢力のみならず、政治家や官僚に対しても不正な利益供与をしてないか、強い関心を持っていた。もし「国会議員」や「キャリア官僚」の職務権限に関する利益供与があれば、大掛かりな贈収賄事件が潜んでいるかも知れない。 しかし、結果的に、野村証券の「VIP口座リスト」には、政治家や官僚、暴力団などの顧客の名前はあったが、いずれも事件につながるような利益供与の形跡は見つからなかった。いい筋だと思っても、すでに時効にかかっているケースが多かったのだ。 主任検事だった井内顕策はこう振り返る。 「それなりの野村証券の顧客なので、VIP口座というふうになっていたが、実際にどこまで特別優遇しているかどうかは、はっきりしなかった。メディアの報道も含めてVIP口座という名前だけが一人歩きすることになった」 内尾は野村元社員に、不正に関与した役員や幹部社員ら当事者の「相関図」をチャートにして提出させ、事情聴取を終えた。友人に対する詐欺の罪に問われていた元社員の勾留期間は、最終的に400日以上という長期に及んだ。 元社員が逮捕されたことから、関係者からは元社員の告発内容の信憑性を疑う声もあったが、特捜部の捜査の進展とともに、告発内容が極めて正しかったことが徐々に裏付けられていった。 (つづく) TBSテレビ情報制作局兼報道局 「THE TIME,」プロデューサー 岩花 光 ◼参考文献 村山 治「市場検察」文藝春秋、2008年 読売新聞社会部「会長はなぜ自殺したか」新潮社、 2000年 司法大観「法務省の部」法曹会、1996年
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