「学費を払えるか心配」残業規制に揺れるサトウキビの製糖工場、月給が10万円以上減る社員も
3月上旬、サトウキビ収穫のまっただなかにある沖縄県・久米島を取材に訪れた。那覇空港からプロペラ機で約40分。島に降り立つと、初夏を思わせる暖かい風が吹いていた。島内唯一の製糖工場「久米島製糖」に近づくにつれ、トウモロコシのような甘い香りが強まっていく。 【写真】2024年問題、イチゴにも影響… 「あまおう」輸送に黄信号
工場はこの時期、24時間稼働する。通年働く社員だけでは足りず、島内外から季節労働者を集める。 鹿児島と沖縄県の製糖業は繁忙期に仕事が立て込むため、「働き方改革関連法」に基づく時間外労働(残業)の上限規制の適用が猶予されてきた。それが4月から適用対象となり、作業員の労働環境は変貌する。残業時間が短くなることは働き方の改善だが、給与低下にもつながる。業界関係者からは「今まで通りの生活を維持できるのか」との不安が広がっている。(共同通信=西村優汰) ▽ハローワークに求人 久米島製糖の工場は、砂糖の需要拡大に応じて過去に増築を繰り返してきたといい、今は体育館のような大きさだ。トラックの荷台に山積みにされたサトウキビがひっきりなしに運ばれてくる。久米島製糖の取締役の山城成人さん(49)は「砂糖作りは工程の多い仕事」と説明する。 サトウキビは春と夏に植え付けされ、1年から1年半の育成期間を経て12月末~4月に収穫される。工場に運ばれると、大型の機械で裁断し汁を搾り取る。それを煮詰めて濃縮し結晶化した後、水分を飛ばすために遠心分離機にかけると砂糖の原料となる粗糖が出来上がる。
粗糖の粒は砂糖より少し大きく、薄茶色だった。すくい取ってなめると、ほのかに甘みが広がる。愛知県に運ばれて精製され、砂糖になる。 久米島製糖では仕事が忙しくなる収穫期に合わせ、毎年40人ほどの季節労働者を募集している。これまでは前シーズンに働いた人に声をかけたり、紹介を通じて人を集めたりしてきた。昨年からは人手不足に対応するため、ハローワークに求人を出すようになった。 今シーズンは人手を確保することができたが、沖縄県内の同業他社では外国人労働者に頼る会社もあったという。外国人や県外から労働者を集めると、住み込む場所の確保も必要になり費用がかさむ。「できるだけ島内の人でまかないたい」のが本音だ。 人口約7千人の久米島は少子高齢化が進み、島内のほとんどの仕事で人手が不足している。ベテランの労働者が次々と引退していく中、4月から適用された働き方改革の影響が来シーズン以降本格化する。 新基準では、月の残業時間が100時間未満、2~6カ月の平均で80時間以内に制限される。久米島製糖ではこれまで、繁忙期には2交代制で機械を24時間稼働させてきた。その働き方では月の残業時間と休日労働の合計が最大180時間にもなり、新基準に触れてしまう。対策として、3交代制を導入し、残業を60時間程度に減らす方針だ。