「学費を払えるか心配」残業規制に揺れるサトウキビの製糖工場、月給が10万円以上減る社員も
▽「給料の良さ魅力」 久米島製糖社員の島袋理恵さん(49)は、抽出されたサトウキビ汁の糖度を確かめる業務に従事している。シーズン期間中の昨年12月20日から3月下旬までは、1日11時間ほど働いた。休日は月に1~2日で、月給は約35万円。中学、高校、大学にそれぞれ通う3人の子どもを抱える島袋さんは「繁忙期の製糖工場の給料はおそらく島内でもトップクラス。給料の良さがこの仕事の最大の魅力」と話す。 だが来シーズン以降は、1日の労働時間や残業代がどうなるのか見通しが立っていない。会社から具体的な説明はなく、不安が募る。「子どもと過ごす時間は増えるかもしれないけれど、学費を払い切れるかどうか分からない。これまで通りでもいいのに」と声を落とした。 久米島製糖の試算では、残業の上限規制を適用すると、月給が10万円以上減る社員もいた。基本給を引き上げ、減少幅を縮める考えだが、経営には痛手だ。給与を重視する従業員の中には転職を検討する人もいる。これまでのようには季節労働者が集まらない可能性もある。
宮里陽さん(25)は今シーズンから季節労働者として働き始めた。定職の少ない島内で安定した収入を得られることに魅力を感じ、応募した。月に35万円程度の収入は「想像していたよりいい給料だった」と笑顔を見せる。仕事は遠心分離機の監視。「機械が自動で動くので体力的にはきつくない。今の働き方に納得しているのに、無理して(働き方を)変える必要はないのでは」と話した。 ▽島の雇用や収入を守りたい 久米島製糖は、社員の負担や業務に必要な人員を減らすため工場設備の改良を重ねている。工程ごとに分かれていた機械の制御室を三つに統合する。うち二つはすでに終え、来シーズンに向けて残り一つの制御室を整備する。費用は2億円に上るが、約6割に補助が付く沖縄県の交付金を活用する。制御室の統合により、季節労働者を数人減らすことができるという。取締役の山城さんは「設備改良にも多大なお金がかかる。補助金なしでは厳しい」と語る。
人手不足が深刻化した場合、工場設備のさらなる改良で対応する予定だが、山城さんは「どうなるか予測できない」と苦しげな表情を浮かべる。 久米島製糖は全盛期の1990年ごろに1万5千トンの粗糖を生産していたが、現在は農家の高齢化などによって3分の1程度に減った。山城さんは「会社の経営は厳しいが、製糖業は島内の雇用や農家の収入を守っている。社員たちの安心を守りたい」と話した。