「収入は10分の1」 40歳、年収1000万円の仕事を辞めた人の「本音」
ひとつは、退職してからも思ったほど貯金が減っていないこと。加藤さんの収入は、都庁に勤めていたときの10分の1ほどになったという。しかし家計を見直したところ、固定費を削減することができ、「生活コストを抑えれば、収入が減っても暮らしていける」という手応えを得た。 加えて、将来設計を考えたことも大きかった。 「家族の将来設計を考えたところ、『僕らは子どもに中学受験をさせることも、住宅をローンで買うこともしなそうだな』という考えに至ったんですよ。だから、世間で言われているほどお金をかけなくても生活していけるメドが立ったんです」
こうして将来の見通しが立つことで、資金面での不安がなくなっていった。だからこそ、「お金を稼ぐために、無理をして働く必要はない」と思えるようになっていったのだという。 加藤さんは、まだキャリアブレイクをいつ終えるか決めていない。「まだ、先延ばしにしていたことがたくさんある。それはちゃんとやりきってしまいたいと思って」(加藤さん)。 まだその最中ではあるが、加藤さんの人生にとって、キャリアブレイクはどのような意味を持つ期間になりそうなのだろうか。尋ねると、「人生には、仕事以外にも大事なことがあると気付くことができた期間でした」と教えてくれた。
「実はこの期間に、自分たちの家族の先祖のことを調べてみたこともあったんですよ。その作業は、自分自身のアイデンティティを考え直す機会にもなりました。そんなふうに、人生を豊かにするうえで大事なことって、仕事以外にもたくさんあると思うんです」 しかし一方で、「自分は恵まれていたと思う」とも付け加える。履歴書にブランクが空いても、その後も仕事は得ることができると信じられるだけのスキルと経験があったからこそ、一歩を踏み出せたのだ、と。「これが25歳や30歳のときだったら、踏み出せなかったかもしれません」。
ひたすらに、がむしゃらに働いてきた20代、30代があったからこそ、こうして立ち止まる勇気が持てたともいえる。 ■人生における重要事項と向き合う機会 加藤さんの話が教えてくれるのは、キャリアブレイクが「先延ばしにしてきた大事なことに取り組む期間」になり得るということだ。 そう考えると、「履歴書の空白」のポジティブな側面が見えてくる。「何もしていない期間」と思われることもあるこの期間が、実はむしろ人生において重要な事柄と向き合う、絶好の機会になることもあるのだ。
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山中 散歩 :生き方編集者