私立小中学校の授業料補助、本当に格差の是正につながるのか?
都内私立中に14歳の息子を通わせるBさん(47)は、私立を選択した理由について「公立に行かせるのが不安で」と打ち明ける。家計は楽ではないが、最初から私立か公立中高一貫校に行かせたいという思いがあった。公立中高一貫校も見学したが、「子どもたちが全く楽しそうじゃないのが気になった」と話す。昔から生物が好きで、自由研究のテーマに毎年「魚」を選ぶ息子の才能も伸ばしてあげたかった。大学と連携して、充実した理系の授業が受けられる今の学校を志望校に選んだ。受験の際は途中で塾に行くのをやめ、通信教育のみで合格した。 それほど授業料が高い学校ではないが、それでも入学してみると裕福な家庭ばかりで戸惑ったという。「もし補助がもらえたとして、月に1万円ですよね。それじゃ全然、足りないです。授業料だけじゃなく、教材費や修学旅行の積立など他にもお金はかかる。もらったとしても助からないです」 公立中について思うことがある。「ちょっと変わった子とかだと評価がされにくいイメージがある。絵が得意とか突出したものがあっても、勉強も運動も態度もまんべんなくできる子の方が、評価が高くなる。でも、公立だからこそ色んな子供がいて当たり前。公立でも多様な個性を持った子がいきいきと通えればいいのにと思う」。
補助は格差を助長する?
今回の施策を専門家はどう見るか。藤田英典・共栄大学副学長(教育社会学)は「格差を逆に広げる可能性がある施策だ」と指摘する。文部科学省の趣旨は「低所得世帯も多様な教育を選択できるようにするため」で、教育機会の格差是正を掲げる。 しかし、藤田副学長によると、私立の小中学校を選択しやすくすることは、「人生の重大な選択の時期、言い換えれば選抜の時期が小中学校に降りてくるということ。そうなると、家庭の経済力や親の教育熱心度によって、小中学校入学段階から教育格差が始まることになる」というのだ。 現状、都市部では、公立の中学校へ進学するのは「私立中に行けなかった場合」とみなされることも多い。経済的な問題を抱える人や、受験に落ちた人が通う学校だというレッテルを貼られている。公立を主体的に選んでいるのに、格差意識を持たされることになる。 藤田副学長は「国は規制緩和が必要だと言って、学校選択制の導入や、公立中高一貫校の増設など、地元の学校へ行かない選択肢をどんどん増やしている。しかし、大多数は地元の学校へ行くことを忘れてはならない。どの学校でも安心して豊かな教育を受けられるようにすることが大前提でなければならない。13億円は例えば厳しい状況にある公立学校に先生を増やしたりすることに使うべき」と説明する。 「子供の選択肢を広げる」、そのことは総じて良い意味で使われてきた。その流れの中に私立小中学校への補助もある。一方で、「皆が地元の小中学校に通い、高校から受験する」仕組みに比べて、本人の進路への意識が低い段階で格差がつきやすくなる可能性をはらんでいることにも目を向けなければならない。多様な教育の選択肢として人気を集める公立中高一貫校がエリート校化していることも見逃せない問題だろう。 今回の文科省の施策は、多様な学校を選択できることは本当に良いことなのか、一石を投じるものだと感じた。