私立小中学校の授業料補助、本当に格差の是正につながるのか?
私立の小中学校の授業料を補助する ── 文部科学省が来年度予算の概算要求に盛り込んだ施策が議論を呼んでいる。普段は意見の異なることの多い、朝日新聞、産経新聞がそれぞれ社説で「もっと吟味が必要」「優先すべきは公立再生」と揃って難色を示したのだ。一方で、私立学校からは「私立の小中だけ補助がない」と不満の声も聞かれる。この施策は本当に必要だろうか、取材した。
そもそもどういった施策か
今回打ち出されたのは年収590万円未満の家庭を対象に、私立小中学校の授業料を補助するという施策だ。年収が350万円~590万円なら年10万円、年収が250万円~350万円なら年12万円、年収250万円未満なら年収14万円が通う学校に支給され、授業料から割り引かれる。私立小の授業料平均は約43万円、私立中なら約41万円のため、約4分の1を負担してくれる制度になる。この施策をするために文科省が予算に計上したのは約13億円だ。 文部科学省によると、私立の小中学校に通う年収400万円未満の世帯は約1.1万人いるという。2015年度の学校基本調査によると、国公私すべての小中学校の児童生徒数が約1002万4900人、私立の小中学校でも32万4290人だということを考えると、対象とされる人の数はかなり少ない。文部科学省の子供の学習費調査によると、私立中学校に通わせている世帯の年収は87.5%が年収600万円以上であり、年収が1200万円以上の世帯が35.1%に上っている。私立の小中学校に通わせている世帯は高所得層が中心であることは間違いないと言える。
文科省の言い分
なぜそういった「限られた人」のために13億円を投入するのか。文部科学省の高校就学支援室の担当者は以下のように説明する。 ──何を狙いとした施策か 教育のニーズは多様化している。私立の小中学校にしかない「男女別学」や「宗教教育」を受けたいという保護者もいる中で、低所得層だけが私立を選択できない状況を改善したい。 ──小中学校は義務教育で公立の学校がある。そのためにこれまで支援がなかったのでは。方針転換か これまでも私立の小中学校に対して何らかの支援が必要との考えだったが実現していなかった。私立の高校やフリースクールへの支援も始まり、私立の小中学校だけ補助がないのは施策の整合性がなくなってきた ──私立の小中学校に行けないことでの不利益は差し迫ったものではないのでは。公立の教育を充実させるほうが優先順位として上では 確かにそのような面もあるが、私達としてはどちらが優先されるではなく、どちらも必要だと思っている ──年間100万円ほど費用がかかる学校も都市部では多い。年10~14万円程度では私立を選択できるようにならないのでは 地方では授業料が安いところもあり、十分後押しになると考える。都市部では足りないかもしれないが、そもそも私立を選択している時点で、その責任は一定負ってもらう必要はある。 文科省の話を聞く限りでは、多様な教育を低所得世帯が選択できることの重要性を訴える一方で、この制度で私立を選択できる後押しになるのは、私立小中が集中する都市部ではなく、地方ということになる。私立に行かなければならない必然性についてもあいまいなままだ。ますますこの施策の対象が狭まってしまったが、この施策はどこから要望が寄せられているのか。