WRCドライバーを目指す日本人3選手が伝統の『ミッレミリア』に挑戦。育成2期生はラリージャパン参戦が決定
TOYOTA GAZOO Racing(TGR)WRCチャレンジプログラムの2期生である山本雄紀と、同3期生の後藤正太郎、松下拓未が、9月12~14日に開催されたイタリア国内ラリー選手権第6戦『ラリー・ミッレミリア』に出場。初めての挑戦である伝統のターマック(舗装路)ラリーで3名とも全ステージを走破し、今後に向けて貴重な経験を得ることとなった。 【写真】ルノー・クリオでラリー4クラスに参戦した3期生の松下拓未/ペッカ・ケランダー組 この夏に日本でも劇場上映された映画『フェラーリ』の中で描かれた伝説の公道レースを起源に持ち、1977年の初開催以降、現在まで続くラリー・ミッレミリア。長い歴史を持つ同イベントはイタリア北西部ロンバルディア州の都市ブレシアを拠点に、国内選手権の一戦として行われる非常に人気の高いラリーであり、さまざまなタイプの路面が用意されているのが特徴だ。それゆえに2期生の山本にとっては、ターマックラリーでの経験値をさらに高めるうえで非常に有益なイベントとなった。 コドライバーのマルコ・サルミネンとともに四輪駆動のトヨタGRヤリス・ラリー2でミッレミリアに参戦した山本は、経験豊かなライバルたちがひしめくなか、序盤から好ペースで走行。ラリーが進むにつれ選手権を争うトップドライバーたちとのペース差を着実に縮めていくなど、高い能力を発揮した。 さらに、競技2日目の途中でクルマのセットアップを変更した結果、スピードはさらに向上し、山本はGRヤリス・ラリー2の性能をフルに引き出してラリーを走り切ることに成功した。 WRCチャレンジプログラムでインストラクターを務めるユホ・ハンニネンは山本の走りを次のように振り返る。「彼は、我々がラリー前に課した目標をしっかりと成し遂げ、自信を深めながらリラックスして走ることができていた。とくにこのラリーで対峙したような道にクルマのセットアップを合わせていく作業については、我々も一緒に多くのことを学んだ」 「彼は難しいシチュエーションにもうまく対処していた。距離の長い夜間ステージにハードコンパウンドのタイヤを履いて臨んだが、スタートが遅れて気温が下がり、冷えたタイヤでスタートする難しい状況になってしまった。しかし(山本)雄紀はうまく適応していたし、忍耐強く対処した彼のアプローチを誇りに思うよ」 ■3期生の後藤、松下にとっては学びの多い一戦に 一方、前輪駆動のルノー・クリオ・ラリー4で出場した後藤/ユッシ・リンドベリ組と、松下/ペッカ・ケランダー組は、これまで経験したことのない物事に数多く直面することとなった。これまでグラベル(舗装路)ラリーに出場してきた彼らは、ターマックという新しい路面でペースノートを作成し、ミッレミリアのハイグリップなステージにドライビングを合わせていくことが求められたのだ。 慣れない路面のステージで限界を見極める過程で、両名ともスピンを喫する場面もあったが、新たなチャレンジを続けるなかで急速に成長を遂げることができたようだ。後藤と松下は周囲のライバルたちよりも圧倒的に経験が不足していたにもかかわらず、ふたりそろって同クラスの大部分のドライバーたちを上回るリザルトでラリーを終えている。 ハンニネンと同じくTGR WRCチャレンジプログラムでインストラクターを務める元WRCドライバーのミッコ・ヒルボネンは、3期生の走りについて次のように述べた。 「(後藤)正太郎と(松下)拓未にとって、今回のような規模の大きなターマックラリーへの出場は初めてのことだった。新たに学ぶべきことが多くあったが、よく適応したと思うし、彼らのパフォーマンスにはとても満足している」 「彼らはスマートにラリーを戦い、素早く知識を吸収していた。そして驚くべきことに、彼らはターマックでのドライビングに関するいくつかの課題を自力で解決するなど、新たなチャレンジを自分たちなりに理解する方法を見つけていたんだ」 「今回はシーズンの序盤に彼らが出場したグラベルラリーとは異なる挑戦だった。ターマックでは、レーシングラインやコーナーへのブレーキングの仕方など、グラベルとは異なるドライビングアプローチを求められるが、彼らはその変化に素早く適応したと思う」 ■山本雄紀と小暮ひかるがWRC最終戦『ラリージャパン』に出場 今回は2期生と3期生の計3名が同じイベントに出場したTGR WRCチャレンジプログラムだが、後者の後藤と松下の次戦は10月4~5日にかけて開催されるフィンランド・ラリー選手権の最終戦『ラリー・キテー』に決まった。このラリーは典型的な高速ラリーでありながら、テクニカルなステージも存在し、彼らにとって2024年最後のグラベルラリーとなる予定だ。 一方、2期生の山本は、怪我の治療を終えた小暮ひかるとともに11月21日から24日にかけて、愛知県と岐阜県で開催されるWRC第13戦『フォーラムエイト・ラリージャパン』に出場する。2022年にフィンランドに渡った彼らにとって、これは生まれ故郷である日本で行われるWRCホームイベントへの初めての挑戦となる。 以下、ラリー・ミッレミリアを終えての3選手のコメント全文。 ●山本雄紀(GRヤリス・ラリー2/総合12位) 「事前のテストはうまくいきましたが、ラリー序盤はその時のリズムをなかなか再現することができませんでした。路面のコンディションは滑りやすく、テストの時と同じようなフィーリングが得られなかったからです」 「しかし、コンディションが改善し、チームと一緒にクルマのセットアップ作業を続けた結果、フィーリングを取り戻し、ペースを改善することができました。以前出場したクロアチア・ラリーは路面の汚れがひどく、つねにグリップに影響が出ていたので非常に難しかったですが、今回のイベントは路面コンディションがより一定でした」 「そのため、舗装路でのドライビングがよりスムーズになるように調整を行なうことができましたし、グリップを見つけるプロセスの助けにもなり、ステージ中のタイヤの温度管理能力を高めるなど、基本的なテクニックをさらに向上させることができました」 「次のイベント、自分にとってのホームラウンドである日本大会に向けて、素晴らしい経験となりました」 ●後藤正太郎(ルノー・クリオ・ラリー4/ラリー4クラス9位) 「とても素晴らしい経験になりましたし、予想していたよりもずっとうまくいきました。テストやシェイクダウンを終えても、自分にとっては新しい路面であるターマックに自信を持つことができませんでしたが、ラリーが始まるとすべてがうまく回り始めました」 「そして、クルマをハードにプッシュする自信がつくと、さらに楽に運転できるように感じられました。ターマックではアンダーステアもオーバーステアも出してはならず、正確かつクリーンな運転が求められ、グラベルのようにスライド量を管理したり修正したりする余地はないので、グラベルとはまったく異なるドライビングアプローチが求められました」 「当初は路面の変化に大きなショックを受けましたが、このイベントを終えて、今後ターマックラリーで戦っていくための確かなベースができたと感じています」 ●松下拓未(ルノー・クリオ・ラリー4/ラリー4クラス11位) 「イタリアは、景色も食事もファンも最高でした。ステージだけでなく、ロードセクションにも非常に多くの観客が集まっていました」 「デイ1は激しい雨に見舞われたことで、最初のステージは湿った路面と泥で非常に滑りやすくトリッキーだったため、リズムを掴むのに苦労しました。しかし、ひと晩よく眠ってから2日目に臨んだところ、スピードが上がったように感じました」 「過去に一度だけ日本で距離の短いターマックラリーに出場したことがありましたが、今回はその時とはまったく異なる体験でした」 [オートスポーツweb 2024年09月18日]