習近平主席が「開港!」を宣言したペルーの巨大新港は「トランプ対策」?
中国の「トランプ対策」
まるで中国が、南米に新たな「植民地」を得たかのようではないか。習近平政権が始動した2013年頃には、こうした光景はしばしば見られたものだ。だがいまや、前述のように中国経済の失速に伴って「一帯一路」は色褪せつつあるので、「懐かしい光景」だった。もしかしたら習主席自身も、CCTVで見ると満面の笑みを浮かべていたから、久々に胸躍ったのではないか。 何と言っても、チャンカイ港は中国の近海ではなく、「アメリカのお膝元」なのだ。特に、トランプ次期大統領の自宅があるフロリダ州からは、直線距離で約3000kmしか離れていない。 私は20世紀末に、当時の中国人民解放軍の将軍から聞いた話を思い出した。 「アメリカ軍は20世紀、この東アジアに多くの米軍基地を築いて、わが国を包囲している。それに比べて、わが軍はアメリカの周囲に、1ヵ所も基地を持っていない。願わくば21世紀には、アメリカの周囲にもわが軍の基地を置きたいものだ」 チャンカイ港は、あくまでも商業港であって、軍港ではない。だが、人民解放軍としては当然、将来的に軍港としても使用したいという野心を抱いているだろう。20世紀の冷戦期には、ソ連がキューバの港を、まるで自国の軍港のように使用していた。 ペルーにとって、中国は過去10年にわたって最大の貿易相手国である。チャンカイ港の開港によって今後、中国との貿易、とりわけ中国への輸出が拡大するのは必至なので、「吉報」なのだ。中国側の発表によれば、新たに9000人以上の地元民の雇用も生まれるという。 CCTVの映像を見ていて、ペルーの幹部が、「わが国は『南米のシンガポール』になりたいのだ」と、心情を吐露していたのが印象的だった。世界に名立たる貿易都市になれば、金融都市にもなれると目論んでいるのかもしれない。そう言えば、翌15日に習近平主席と会談したペルーの隣国チリのガブリエル・ボリッチ大統領も、羨ましそうな表情でチェンカイ湾の開港について言及していた。 習近平主席とボルアルテ大統領は同日、両国のFTA改定にも署名した。現在、年間約360億ドルの中国・ペルー間の貿易を、5割増しにするのが目標だという。ちなみに中国からすれば、こうした一つ一つが「トランプ対策」にもなっている。 後編記事【「成果ゼロ」日中首脳会談に透ける習近平主席のホンネ】では、習近平主席の本音に迫ります。
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)