「私に何かあったら…」災害時、我が子の命を守る親の不安 「医療的ケア」が突きつける現実と矛盾 #知り続ける
医療的ケア児の現実
一家は現在、宮古市内の高台に建てた自宅で暮らす。百花さんは日中、特別支援学校へ通い、それ以外の時間は主に千都子さんが付き添う。 体重は22キロ余りになった。今でも夜中に起きては、意思に反して体を突っ張る不随意運動がある。そのたびに床ずれしないよう寝返りさせ、体をさする。 ミキサーにかけた食事を胃へ直接送る胃ろうを、4歳で始めた。胃の入り口を閉じる手術はしておらず、顔の向きが変わったり、あくびをしたりしただけで、すぐにもどしてしまう。窒息する恐れがあり、たんの吸引も必要だ。千都子さんはトイレに行く間も気が抜けない。 胃ろうやたんの吸引といったケアが欠かせなくなったことで、特別支援学校の送迎バスに乗れない。放課後保育も使えない。「同じ障害者でも、医療的ケアがあると受け入れてもらえないところがほとんどなんだな」。現実を知った。
どこに、どうやって避難するか
災害時、百花さんらはいったん近くの中学校へ行き、そこからより設備の整った福祉避難所へ移ることになっている。ただ、ケアに用いる機器、おむつや衣類、専用の食品に、姿勢を保持して移動できる特注のバギー――。荷物が多く、何度も移動はしにくい。 そもそも避難先の福祉避難所を千都子さんは知らないという。中学校に行けば場所を教えてくれるのか、どのような手段で行くのか、分からないことばかりだ。 市内に最近できた福祉施設を見学したことはある。ただ、百花さんが利用するには、千都子さんら介助者の付き添いが条件だという。「私に何かあったら、この子は……」 医療的ケアが必要なのは、それだけ生きていく上でリスクがあるから。なのに、そのことがかえって避難を難しくするという矛盾が、厳然としてある。
非公表の福祉避難所リスト
国は21年、医療的ケア児支援法を施行し、ケア児を社会全体で支援するとうたった。福祉避難所の確保・運営に関する市町村向けのガイドラインも改定。事前に施設を指定して公示し、対象者も特定して、福祉避難所への直接避難を促すなど「要配慮者への支援を強化する」とした。 各自治体も対応を急ぐ。宮古市にも現在27カ所の福祉避難所があり、「自宅からの直接避難も想定している」(担当者)。ただ、福祉避難所のリストは公表していない。医療的ケアに対応した施設は限られており、想定しない被災者が殺到すれば現場が混乱するからだ。同様にリストを公表していない自治体は珍しくない。 対象者側からは、あらかじめ個別に福祉避難所を知らせるよう求める声が上がっているが、自治体の対応は追いついていない。「人員不足もある。要支援者が多くて、一人一人にどう手を回せば……」。岩手県内の別の自治体の担当者はそう話し、「大半の市町村が同じでは」と漏らす。 宮古市もその一つだが、当事者にとっては命に関わる問題だ。「事前に知りたい。電話してから行くとか、福祉避難所だと口外しないやり方もあるのでは」。千都子さんのもどかしさは消えない。