「私に何かあったら…」災害時、我が子の命を守る親の不安 「医療的ケア」が突きつける現実と矛盾 #知り続ける
支援者探しに行き詰まるケースも
災害時の支援者を探すのに苦慮する場合もある。 岩手県一関市の千葉淑子さん(62)の長女一歩(いっぽ)さん(33)のケースだ。生まれつき重度の知的障害と身体障害がある。19歳で脳出血を患い、淑子さんや夫敏之さん(66)を見て笑うこともなくなった。 ベッド脇には血中の酸素濃度や心拍数を見守るパルスオキシメーター。体調に応じて、酸素濃縮器や人工呼吸器、たんが固くならないよう空気を湿らせる加温加湿器の助けも欠かせない。 東日本大震災のとき、一歩さんは停電した自宅ではなく、たまたま設備の整った盛岡市内の施設にいて難を逃れた。淑子さんは「ラッキーだった」と振り返るが、今もし災害に見舞われたら――。
「1人では絶対無理」
「一歩さん、いきますよ」 23年12月中旬。淑子さんは自宅から電話で「支援者」を呼び出した後、「一歩さん」に声をかけ、ベッドから特注のバギーに移した。 駆けつけた「支援者」の男性に「一歩さん」の見守りを依頼。その間に縁側の窓を開けてスロープを置き、家の前につけたワゴン車の後部からバギーごと乗せた。衣類や食料などを詰めたバッグも、何往復もして積んだ。 家には淑子さんと一歩さんだけ――。そんな日中の時間帯を想定し、一関市が実施した避難訓練だ。「一歩さん」は人形、「支援者」は市職員が代行した。 外出時は、人工呼吸器につながった加温加湿器をいったん外し、簡易な器具に組み替える。今回はすべて準備して臨んだが、災害時に必要なものが散乱していれば、そのぶん時間がかかる。「(淑子さん)1人では絶対無理」。支援者役をした職員の言葉に実感がこもった。
住民の手助けが頼り
もっとも、一歩さんが住む地区は100世帯弱のうち1人暮らしの高齢者が10世帯以上。日中、家にいるのは多くが高齢者やその介護者だ。 「(一歩さんは)こんなに機械をつけて『絶対、避難弱者だよね』と思われる。でも地域に入れば『お母さんもいるし、お父さんもいる。車はあるし、自分でできるよね』となる」。淑子さんはそうこぼす。 訓練は近くの印刷会社の社員も見学したが、土日や夜間の避難なら、やはり住民の手助けが頼りだ。「高齢者のことを考えると、わがままをお願いしているのかな……」