岩手発・ヘラルボニー「福祉×アート」その先へ ネクタイは3万円台 商品の魅力で選ばれるブランド力を強化
独創的な色遣いのシルクスカーフや精緻な模様で彩られたネクタイは洗練された印象で、まるで海外のブランドを思わせる。モデルやデザイナーなどファッションに精通した人たちからもそのデザイン性の高さが評価されている。 たとえば、ネクタイは1本3万5200円と決して安くない。この価格設定も、既存の福祉の枠組みではなく、今の社会の基盤である資本主義の中で障害のある人たちが正当な対価を手にできる仕組みを作るため。
同時に、障害のある人のアートという背景を知らなくても商品の魅力で選ばれるブランドであることが、結果的には障害や障害者福祉に対する価値観を変革することにつながるという信念の表れでもある。 ■「かわいそう」の悔しさが原点 双子の松田さんたちにとって、揺るがない使命感の根底にあるのは、4歳上で重度の知的障害を伴う自閉症の兄・翔太さんの存在だ。 幼いころから、兄弟3人はとても仲が良かった。だが一歩外に出ると翔太さんが馬鹿にされたり、「かわいそう」と心ない言葉を掛けられたり。
2人は何度も悔しい思いをしながら、世間が言う「ふつう」という価値観への疑問を募らせていった。 漠然と「将来は福祉に関する仕事をしたい」と思っていた2人がMUKUを始めたのは、ともに社会人2年目の夏。 東京の広告代理店で働いていた崇弥さんが帰省中に、地元・岩手の社会福祉法人が運営する「るんびにい美術館」(花巻市)で知的障害のある人たちのアートを目にしたのがきっかけだった。 高校時代、ヒップホップやグラフィティにはまり、美大時代はさまざまなアートに触れてきた崇弥さんだったが、執拗なまでに同じ図形を連ねた絵画やびっしりと色とりどりの糸で刺繍されたテキスタイルの迫力に圧倒された。
崇弥さんから作品を見せられた文登さん、そして2人の友人も「これはヤバい!」「こんなすげえの見たことない!」と衝撃を受け、「るんびにい美術館と一緒に何かしたい」と意気投合。 それぞれの仕事の傍ら、早朝や深夜にオンラインで相談を重ね、「るんびにい」の作家のアートを織り込んだネクタイを商品化するための構想を練り上げた。 ■「作家の幸せが第一」 文登さんは「るんびにい美術館」のスタッフと作家のもとに足を運び、自分たちの思いや構想を伝えてきた。作品をどんなアイテムに仕立てるのかを丁寧に説明したうえで、作家たちが喜んでくれる商品を世に出すためだ。