日本上陸の懸念も、刺されれば死に至る外来アリに備える
侵入時間が浅いうちに、防除対策を実施 根絶の一例になるか?
たかがアリですが、その数が増えると大きな被害が生じます。アルゼンチンアリの場合は、毒針は短く、人間を刺すことはほとんどありません。しかし、上記のように多女王性の巨大コロニーを作り上げると、周辺にもともと生息していた在来のアリ類や、その他の昆虫・クモ類等を駆逐してしまい、さらに人家に大量に侵入し、食物にたかるなどして、人間に対して大きな精神的苦痛を与えます。 実際に、廿日市市では住宅街において本種が大発生し、台所においてあったケーキに瞬く間にアリが群がり真っ黒になっていたり、朝、目覚めたら寝ていた布団の中でアリが巣を作っていたり、などの侵入被害報告が多数あり、住民たちの中にはノイローゼ寸前になるひともでてきました。 アルゼンチンアリは日本に限らず、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドなど世界に広く分布を拡大しており、ヨーロッパには1800年代から侵入していたと考えられ、外来生物としての歴史は割と古いといえます。同時に海外では、そのコロニーは数十から数百キロメートルという長さにもおよび、その侵入エリアにはアルゼンチンアリしか存在しないというほどのインパクトを与えています。 日本は、上記の海外での侵入状況と比較すれば、まだ、侵入後の時間が浅く、分布もコロニーサイズも限られたものであることから、根絶を目指して早急に手をうつことが肝要です。我々国立環境研究所侵入生物研究チームでは、東京都に侵入したアルゼンチンアリ集団を対象として、薬剤による防除試験を行い、集団を根絶する、すなわち個体数をゼロにするまでに必要な薬剤の処理タイミング、処理量、および個体群密度の測定などの方法を検討し、実際に、集団の根絶に日本で初めて成功しました。 国立環境研究所はこの試験で得られたデータを基に環境省と共同で「防除マニュアル」を作成して、HP上に公表しました。現在、神奈川県、静岡県、京都府、大阪府、兵庫県、および岡山県において、本マニュアルにのっとり、防除事業が推進され、確実に集団の密度を低下させることに成功しており、第2、第3の根絶事例となる日も遠くないと思われます。