足が動かない人や目の見えない人が、バイクでさっそうと風を切る。障害がある人の「やりたい」を叶える「Side Stand Project」
足が動かない人や目の見えない人が、バイクでさっそうと風を切る――。そんな光景を創り出した団体があると聞き、走行会に行ってみた。主催は一般社団法人Side Stand Project(通称SSP)。夫の勧めで、友人に誘われて、など参加のきっかけはそれぞれだ。ライダー、ボランティアスタッフ全員が一体となって楽しむイベントに参加する人たちの思いは(撮影=木村直軌) 【写真】6人のライダーを支えるために集まったスタッフは55人。1人のライダーに3、4人のスタッフがつき、乗車をアシストする * * * * * * * ◆緊張感のなかにも笑顔が絶えない 強い風が吹く4月のある晴れた日。千葉県公認のレーシングコース・袖ヶ浦フォレストレースウェイで、小規模のバイク走行会が開催された。コースを走るのは6人。脊髄損傷、半身麻痺など、身体に何らかの障害を負った、《パラモトライダー》と呼ばれるメンバーだ。 主催するのは、Side Stand Projectという団体だ。健常者がサイドスタンド(二輪車を駐車する時などに用いる支え棒)のように支えることで、「障害があってもバイクに乗りたい人」を応援する。 代表の青木治親(はるちか)さんは現役のオートレース選手で、ロードレースの元世界チャンピオン。長兄の宣篤(のぶあつ)さん、次兄の拓磨(たくま)さんとともに、ロードレース界では「青木三兄弟」として名を馳せた。 1998年、練習中の事故で下半身不随となった次兄の拓磨さんを再びバイクに乗せるために発足したプロジェクトが、その前身となっている。 だがプロはまだしも、障害のある一般の人が、不安定で操りにくい二輪の運転などできるのだろうか。
この日、6人のライダーを支えるために集まったスタッフは55人。全員がボランティアだ。午前9時。開会挨拶に続き、ボランティアマネージャーの杉本卓弥さんがレクチャーを始める。 「安全第一のため、まずは情報共有が大切です。どんなに小さなことでも必ず周りに相談してください。スタッフには、医療関係者、バイク屋さん、教習所の先生もいます。専門の方の判断を仰いでくださいね」 続けてライダー一人ひとりの障害の詳細と、どんなサポートが必要かを丁寧に説明。ライダーごとにスタッフをグループ分けし、乗り降りをアシストする練習に入る。バイクは走り出してしまえば車体が安定するので、発進と停車さえサポートすれば問題ないという。 使用するバイクは、たとえば足が動かなければ代わりに手で操作できるよう、各人に合わせて改良されたものだ。専用のインカムがヘルメットについていて、走行中はライダーに指示することができる。 ボランティアスタッフの動きは機敏で、驚くほど連携が取れていた。ピリピリした雰囲気はなく、緊張感のなかにも笑顔が絶えない。