「これが本当に里芋?」不思議な食感がフランス料理のテリーヌに
芋が腐らないようにするにも手間が伴う。センチュウが敵で、「連作が効かないので土地を交換しないといけません。菌がつくと、1週間で枯れてしまうのですよ。うちの畑では、必ず水田のあとに里芋を植え付けるようにしています」。 生産者の労力はもちろんだが、同じ品種なのに土が違うだけで、これほどにも里芋の出来が違ってくるものなのかと不思議に感じる。上庄の里芋と一般に出回っているそれとは、明らかに食感が違うので、食べ比べてみる価値はある。
フランス料理は固定観念で作らない
この独特の歯ごたえがある上庄の里芋は、もちろん日本料理にも使えるわけだけれど、これをフランス料理にしてしまうアイデアはどこから生まれたのだろうか? 鎌田シェフは、地元の高校を卒業して、神戸市にあるフランス料理店に修行に出た。フランス帰りの先輩から毎晩のようにフランスの“すごい料理の世界”の話を聞かされた。いてもたってもいられずに、すぐに渡仏。同国南部アンティーブのレストランなどで働いて、料理の基礎や店の雰囲気作りを学んだ。 「フランス料理は固定観念で作るのではありません。『何か違うものを合わせたら、面白いものができるのではないか?』と考えます。特にフランスの有名シェフ、ジョエル・ロブションが実践しています。フランスには里芋という食材がありません。それをフランス料理に仕立てたら、それは日本独特のフランス料理メニューになります。店を開いたら面白いものは優先的にやろうとも思っていました」。
2002年に東京・水道橋に「トロワ・サージュ」を開店した。2011年には現在の場所に店を移し、13年目になる。「里芋のテリーヌ」は開店まもなくから提供している定番メニュー。「私が福井出身だということもありますし、上庄の里芋の食感は知っていました」。
上庄里芋のテリーヌは、こんな手順で調理される。(1)里芋をベイクする(2)ゴマをまぶす(3)鶏のすり身をつなぎとして合わせる(4)テリーヌ型に詰めてオーブンする。驚くのは里芋に2度も火を通しているのに、固い歯ごたえを保っているということだ。