野村克也監督「江夏に見合う大投手はお前しかおらん」も実はサッチーが原因!? 江本孟紀氏が明かす阪神へのトレード裏話 「プロでやれたのは張本勲氏のおかげ」
コワモテ揃いの東映…まずは張本勲氏にご挨拶
徳光: じゃあ、すぐに東映のキャンプ。 江本: 10畳くらいの部屋で選手が10人くらいいるわけですよ。先輩から「お前、ちょっと来い。今日から入ったんで、御大に挨拶に行こう」って言われてね。行った部屋が張本勲さんの部屋なんですよ。 徳光: へぇ。 江本: ビビったですね。もう足震えながら行きましたもん。張本さんは部屋に1人でいるんです。正座して、「今度入りました」って挨拶したら、先輩が言うわけですよ。「こいつは、あちこちで問題を起こしてね」とか。 徳光: そんなことを言うんだ(笑)。 江本: そしたら、張本さんがひと言、「お前、ここに来たらケンカしたらあかんで」って。「えっ、これ、どこの世界?」みたいな感じですよ(笑)。 それで、張本さんが何を思ったか、「そこにアメリカから来た菓子がいっぱいあるから、お前、手に持てるだけ持って帰れ」って。 張本さんのところに行った僕が帰ってくるのを、みんなが待ってるんですよ。それで、部屋に戻った僕がお菓子をダーッと置いたんですね。そしたら、みんなびっくりしちゃってね。「お前、これ、どうしたんだ」と。「張本さんが『持って帰れ』って言った」って言ったら、「あの人に物をもらったのは、お前しかいない」って(笑)。そうらしいですよ。
土橋正幸コーチからの無茶ぶり指令で大ピンチ
当時の東映のピッチングコーチは土橋正幸氏。現役時代は速いテンポの投球から「江戸っ子エース」と呼ばれ、後にヤクルト、日本ハムなどで監督を務めた。 江本: “喧嘩、江戸っ子、土橋正幸”。もうすごいすごい(笑)。先輩から「これだけは逆らうな」と言われてたんですよ。 その土橋さんから、いきなり「お前は人より遅れてんだから、今日あたり、フリーバッティングで投げろ」って言われて。でも、こっちはまだ肩ができてないですよ。 徳光: そうでしょうね。 江本: まだ1週間も経ってないですから。 フリーバッティングってバッターが3人1組で出てくるんですよ。「お前、この組で投げろ」って言われた組の先頭打者が、前の年に25歳でホームラン王になった大杉勝男さんですよ。 徳光: 大杉さん、へぇ。 江本: もう顔見るだけで怖いじゃないですか。ハーッって構えてくるしね。 ストライクが入るわけないですよね。10球くらい入らなくて、怒ってバッティングケージから出ていきましたよ。「馬鹿たれ、お前!」、ガンッって出て行ったんです。足震えながら、「すいません」って謝って。 次に出てきたのはなんと白仁天ですよ。 徳光: うわっ。 江本: この人はさらに怖いですよ。また、10球くらいストライクが入らないんですよ。 「パカヤロウ」って言われました。「パカヤロウ、パカヤロウ」。 それで、3人目に来たのが張本勲さんなんです。もう目の前、真っ白です。 徳光: もっと投げられなくなっちゃうよね。 江本: 投げられないですよ。もう「この人にストライクが入らなかったら辞めよう」と思ったんです。「やっぱり俺にプロ野球は無理なんだ」と。 それで1球投げたんですけど、やっぱりクソボール。それからクソボールが10球くらい続いたんですけど、張本さんは鼻歌まじりに片手で、ハエ叩きでハエを叩いてるみたいな感じで全部打つんですよ。そこが大杉さん、白さんとの違い。そうやってるうちにストライクが入り始めたんです。 徳光: へぇ。 江本: それで僕は命拾いしたんです。あのままストライクが入らないで、張本さんにバットをバーンって投げられて、「バカヤロー」って言われてたら、今日はなかったんですよ。あれがなかったら、プロではやっていけてなかったですよ。
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