【コラム】AIが人類を滅ぼす日!?…イギリスの「リーダーシップ教育」とは【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
■担任教師の“意外な”評価「かつての自分を乗り越える」
先週、担任の先生から息子が「算数で表彰された」と連絡があった。だが算数のテスト結果をみると、クラス全体の平均よりも2点低い。担任の先生にメールで「これは一体どういうことでしょうか?」と尋ねると、わずか5分後に返信が来た。 「たしかに息子さんはクラスの平均点を2点、下回りました。でも5か月前に来たばかりの頃、言語の問題で算数の文章題をはじめ多くの課題に四苦八苦していたことを考えると、彼の進歩はとても大きいのです」 「我々は常に、他の生徒との比較ではなく、かつての彼自身と比較して見ています。ですから彼が自分自身を鍛錬し、たゆまずに課題を乗り越えてきた過程を見て、表彰に値すると考えました」 テストの結果や点数だけで相対評価するのではなく、努力や進歩の過程を評価し、過去の生徒自身と比較する――これは教師にとっても、簡単な作業ではないだろう。ひとクラス十数人の少人数制だからできる、というところもあるかもしれない。けれど、それはどこか“常に己を鍛錬せよ”というリーダーシップ教育に通ずるものがある気がする。教師が1人1人の歩んで来た“道のり”をつぶさに見ているからこそ、できることに違いない。心の中で、そっと担任の先生に頭を下げた。
■AIとブロックチェーン、そしてリーダーシップが目指すものは
翻って「ブロックチェーン・カンファレンス」。最後に、ノルウェー出身だというブロックチェーン企業「nChain」のクリステン・ハンセンCEOに聞いてみた。「なぜ、あなたは活動の本拠地にロンドンを選んだんですか?」 クリステンさんは遠くを見るような目をして答えた。「私はノルウェーの小さな漁村出身です。8歳の時、初めて親に連れられてロンドンを訪れた時、本当に驚きました。1971年、活気に満ちたカラフルな世界に、イスラム、カトリック、ユダヤ人、顔の色も言葉も宗教もさまざまな人たちが暮らしていて、私の住んでいた単色の世界と全然違う……私は両親に『大きくなったら絶対、ロンドンに住む!』と宣言しました」 「そして今、私はここにいます。貧しさと好奇心がハングリー精神を生む。雑多な人々がマインドを共有するからこそ、何かが生まれる。誰もが受け入れられているという多様性のダイナミズムこそが、新たな革新を生み出すんです」 インターネットが登場した時、誰も今の世界を思い描けなかったように、AIやブロックチェーンが10年後の世界をどう変えていくかは誰にも予測できない。でも、その時に必要とされるのは、「みんなのために」とリスクをとって、果断な決断ができる優れたリーダーなのかもしれない。 ◇◇◇
■筆者プロフィール
鈴木あづさ NNNロンドン支局長。警視庁や皇室などを取材し、社会デスクを経て中国特派員、国際部デスク。ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、系列の新聞社で編集委員をつとめ、経済部デスク「深層ニュース」の金曜キャスターを経て現職。「水野梓」のペンネームで日曜作家としても活動中。最新作は「彼女たちのいる風景」。