「トヨタはEV開発で出遅れ」は本当か? マツダとの新会社で見据える戦略
石炭火力発電よりもCO2排出が少ない内燃機関
売れる売れないだけで考えると当分はEVの爆発的普及は考えられないのだが、浮世の事情はもっと複雑だ。地球温暖化防止のために、内燃機関の生産を抑制しようというポリティカルな流れがあり、世界各国でEV販売台数比率の法的義務づけが始まっているのだ。 エネルギーの話のややこしいところだが、いわゆる市場原理に則って話が進められない。安い石油エネルギーは供給側にも需要側にもメリットがあるが、需給の外部に不利益を与える場合がある。いわゆる「ピグー税」の言う外部不経済である。安くて性能は良いが、公害を発生するとすれば、その対策を国が税で実施しなくてはならなくなる。だったらその分は税として生産側に乗せるべきであるという考え方をピグー税と呼ぶ。だからピグー税的考え方に則れば、EVは一見正しく見える。 しかしながら、話はもう一度ひっくり返る。技術の向上により、すでに内燃機関は石炭火力発電に比べてCO2排出量が少ない。あるいは石油発電との比較ですら、もう少しで同等というレベルまで来ている。今のところ勝ち目がない相手は天然ガス(CNG)発電だけで、CNGだけは内燃機関より文句なしに効率が良い。 とすれば、ノルウェーのような特殊な発電事情の国を別にすれば、太陽光や風力で発電したエネルギーで、最初に何を減らすべきか? それは誰が考えたってCO2排出量の多い石炭火力発電なのだ。本当にCO2排出量を減らすことが目的ならば、最も効率の悪い石炭火力発電の全廃後、初めて内燃機関の話になるべきである。
現実を無視してEV増を目指す政治的な流れ
と、ここまでが本質論だ。だが残念ながら本質論と現実は違う。法律があるからだ。アメリカを例に採れば、2018年、法律によって指定された自動車メーカーは全販売台数のうち、4.5%のEVを売らなければ、巨額のクレジット(実質的な罰金)購入を迫られる。一応4.5%のうち2.5%まではプラグインハイブリッド(PHV)でもカウントされるが、残る2%はEVまたは燃料電池車でなくてはならない。しかもこの比率は毎年更新され、最終的には2025年に22%(うちPHV6.0%まで)まで上がり、到底達成困難な数字となる。 2025年にマーケットのEV需要が各社の22%相当の合計分あればいいが、現状からの予想ではそうはならないだろう。この規制の考え方は統制経済とか計画経済の類いであって、自由経済の原則を大きく外している。それでもルールだからメーカーはクレジットと言う名の巨額の罰金を避けるために、EVの叩き売りをしてでも予定台数を販売しなくてはならない。言い方を変えれば、EVなんて欲しくもない消費者に買ってもらわなくてはならないのだ。現在のように政治的に減税や補助金をジャブジャブ流し込んで、消費者メリットを作ってくれれば良いが、果たして22%という数字になった時そんな政策が続けられるだろうか? 政府のインセンティブが付けられなくなった時、おそらくEVの利益率はグッと下がる。EV開発は新たなブルーオーシャンを目指す戦いではなく、押しつけられたババを出来るだけ少ない傷でかわす“強制イベント”なのだ。これはアメリカの「ZEV規制」でも中国の「NEV規制」でも変わらない。本質論に戻って言えば、ほとんどが石炭火力発電の中国で、自動車をEV化したら、CO2排出量は増加するのだが、法律の上ではEVはゼロ・エミッションなのだから仕方ない。 ということで、日本の自動車メーカーはEV開発の強制イベント真っ最中である。現状では地域によって、求められるクルマのサイズも性能も異なる。売れない&儲からないクルマを多品種開発しなくてはならない。そういう流れが見えていたからトヨタもホンダもEVの販売を先送りにしてきたのだが、世界ナンバー1マーケットの中国とナンバー2マーケットのアメリカで相次いで規制が発表され、さらに期待のマーケットであるインドでも規制が検討されていることから、重い腰を上げざるを得なくなったわけだ。儲かる構造になるまで待っているわけにはいかなくなったのだ。