J1町田で黒田監督が旋風を巻き起こし「めちゃくちゃ嬉しい」奈良クラブユース 内野智章監督が激白
別にそれを考えてJクラブに来たわけではないんですけど、結果としては、黒田さんのああいう姿を見ているとそう思いますよね。先生の仕事って本当に激務なので。「お前、教員の仕事なんてやってないやんけ」って言われるかもしれませんけど、とは言え先生として生徒と関わっているので、休みもないし、サッカー部以外の生徒との関りもあるし。そういう意味では本当に大変な仕事なので、先生をやることでしかサッカーの指導者になれないっていう環境も違うなと思っていて、色んな人がサッカーの指導者としても夢や希望を持って目指せるようにならないと、良い選手が生まれる環境もできないと思うし。 現状では、現状ではですけど、黒田さんみたいにJリーグの監督になろうとは思っていなくて、Jの育成の世界でどれだけ極められるか。「あそこのクラブに行ったら内野さんに教えてもらえる」と。今だったら、神村、静学、昌平、尚志、青森山田なんかに「あのサッカーがやりたい」とか「あの先生に教えてもらいたい」というのがあると思うんですけど、Jユースにはあまりなくて。Jユースの場合はどちらかというと「あのJクラブに入りたい」なので。 良い指導者も沢山いるんですけど定着しない。みんなトップに行っちゃうので。それは良いことなんですど、一方で凄く色のあるJユースというのがない。昔やったら読売ヴェルディがクラブ全体でTHEヴェルディっていうサッカーをやっていて、ガンバもそうだった。多分、真っ白のユニフォームを着てたとしても「これはヴェルディ」「これはガンバ」ってわかったと思うんですよ。それが最近ではないとは言わないですけど、あまり感じないですよね。 「あそこのサッカーをしたい」という子どもの声を聞かないですよね。「あのクラブに入りたい」はあるけど、「あのJユースのサッカーをしたい」という声は聞かない。これまで20年間高校の監督をやって来て、色んな子どもに声を掛けて来て、「静学のサッカーがしたい」とか「昌平のサッカーがしたい」とか「青森山田の厳しい環境でやりたい」とかは正直言われてきました。 でもJユースに行く子って「あのコーチに教えてもらいたい」じゃなくて「あのクラブに入りたい」「あのユニフォームが着たい」なんですよ。それも全然いいんですけど、プラスで「あのユースのサッカーがしたい」と言われるように。「あのユニフォームを着て、あのサッカーがしたい」と言われるようにしたい。 興國ではそう言われるように、ユニフォームやウェアにもこだわりましたし、プレースタイルにもこだわってきたつもりなんですけど、Jユースでそう言われるチームを作りたい。それはS級を取ってJの監督になれば儲かりますけど、S級を取るのももの凄い大変ですし、僕みたいな者が簡単に取れるとも思わないし。それよりも今のJユースにもうちょっと色を付けたい。良い指導者はいっぱいいるので。 圧倒的に選手権の方がコンテンツとしては上なので、ちょっとでもJユースがコンテンツとして魅力があるようにしていきたい。今回、奈良クラブとして初めてクラブユースの全国大会に出させてもらって、僕自身としても初めてで。興國で全国に出るのには15年かかりましたけど、奈良クラブでは4か月(笑)。でも出て思ったのは、高校の全国大会よりも圧倒的にクラブユースの方がサッカーの質は高いです。全然質が違う。 ただこれがプレミアで試合をすると勝った負けたとなるので面白い。ガンバユースの町中監督は同い歳で、中学の頃から大阪トレセンで一緒で友達なんですが、練習試合をした後に話をしていたら、クラブユースは優勝したけどプリンスは大変だと。「ちゃんと準備をしないと勝てない」と。 それが良い悪いではなくて、サッカーの質が高校とJクラブって全然違うんです。Jクラブはお互いの志しているプレーモデルのぶつかり合い。でもそこに高体連が入ってくると、高体連は相手の良さを消して勝つという事に特化しているから、だから簡単には勝てない。ある種Jクラブ同士の対戦の方がガンバも勝率が高い。それはクラブユースに出てみて凄く思いました。相手どうこうではなくて自分たち。ワーチャレとかエクロガ(神村学園、静岡学園、昌平、興國、奈良クラブユースなどが参加しているフェスティバル)に近い。あそこに出てるチームって相手を研究しない。静学が神村を研究したりしないじゃないですか。「俺たちのスタイルが相手のスタイルを上回るんだ」っていう戦いなんで。 あの集まりよりもクラブユースの選手の方が身体能力だったりが上です。だからクラブユースの方が質がワンランク上だと思います。だから絶対にコンテンツとしては面白いはずなんです。選手の質が高いんで。ただ、勝敗に対してのこだわりが選手権とかに比べると、感動を呼ぶというところで弱いんですよね。Jユースに勝つ気がないというのは一切ないんですけど、ああいう年末年始の時期に日本全国から集まって、各都道府県で放送されて。「国立という舞台を目指すんだ」っていうあの物語は凄いです。県の予選を勝ち抜いて。 あの物語にJのユースが勝つっていうのは凄く難しい。同じようなことをやっても勝てないんで、また違う方法や考え方で、ユースのレベルの高さだったりをコンテンツとして魅力を高めていかないと。今は高体連が上で、それをユースが追い越して、また高体連が追い越す、そしてまたユースがってなっていかないと日本のサッカーが良くなっていかないのかなと。そこの部分で何か盛り上げられないかなと。ユースの色を付けていって地域性のライバル関係とか。 例えばレアルとバルサって、ジュニアからバチバチで。だから大阪と東京がバチバチな構図とか。ユースでもそういう環境がもっとあってもいいのかなと。ユースでもダービーとか、コンテンツとして盛り上げていく方法があるんじゃないかと。本当に選手の質は高いんで。 ユースを経てトップを目指す指導者がいる一方、ユースで指導者人生を終わらせるくらいそこにこだわる指導者がもっと出てきてもいいんじゃないかなと。そういう人もいてると思うので、もっとそういう人にフォーカスが当たってもいいんじゃないかなと思います。 そういうところが高校サッカーに比べると圧倒的に少ない。もちろんJのコンプライアンスの問題で取材に手間がかかるとかもあるとは思うんですが、でもだからといって諦めとったら進歩もないんで。そういうのも盛り上げられたらなと、勝手に奈良の田舎で思っています(笑)。 (文=会田健司)