「母になって後悔してる」を考える。〈後編〉「悔やむのは子どもを産んだことでなく、この社会で母になったこと」
事実婚を選択した理由
依田: 子あり・子なしという違いはありますが、私たちは二人とも、事実婚なんです。私の場合、なぜ、たいていの女性が夫の姓を名乗るのかな、両親は名字と名前の字画を考えて私に名付けてくれたのに……などというモヤモヤが生まれ、「みんなが夫の名字に変えているから」という理由で自分も改姓することには違和感があったので、別姓の事実婚のかたちがしっくりきました。 子どもができた時に夫とも話し合いましたが、母親になったのを理由に自分が大事にしたいことを曲げるのは、やっぱり違和感があったので、名字は変えませんでした。息子には、父親と名字が違っても、家族としてお互い尊重して生きていこうと伝えていきたいです。 髙橋: 私も、改姓する選択肢はなかったし、パートナーも同じ思いだったので、お互い相手に強いることはなかったです。自分に合った形でパートナーと一緒にいられたら、という思いがありました。 柏木: 自身の名前をそのまま名乗り続けるということは、自分らしく生きるための選択のひとつでもありますね。夫婦同姓を定める民法の規定については、女性が仕事を続けるうえでも弊害が大きいとして日本経済団体連合会(経団連)が早期に改正を求める提言を今年6月に出したほか、国連の女性差別撤廃委員会からも10月、「選択的夫婦別姓」を可能にする法改正を行うように4度目の勧告が出されており、今後制度化がなされるのかどうかが注目されています。
母親も後悔したっていい
柏木: 「母になったことの後悔」を考えることは、女性も男性も社会の中でお互いの生き方を尊重し合えるようになるために、大切なテーマだと感じました。今、母親になって後悔している方、母親になることを迷っている方、この本にまだ出会ってない方たちに向けて、最後にお二人からメッセージをお願いします。 依田: 「母親になって後悔している」とは、とても言いづらいことですし、考えること自体、自分を否定したくなる気持ちにつながる人もいるかもしれません。でも、母親たちは「頑張ったから後悔している」のだと思います。 私は、この取材から、母親が「産んだ後悔」を語ること自体、タブー視されることはあってはならないと感じました。「後悔」という言葉を口に出してはいけない、それはすなわち、負の感情を抱く母親の口を塞ぐことだと。「母親だって後悔したっていいじゃん、あなただけが後悔しているわけではないよ」と伝えたいですし、抱える様々な悩みのひとつと捉えて、自分を責めないでほしいです。 髙橋: 取材を始めた時は、救いのない、つらい話になるのでは、と思いましたが、実際は、母親たちが苦しみを乗り越え、自分を取り戻していく過程を知ることができました。今、悩んでいるお母さんたちには、自分を客観的に見つめ、何らかのヒントを得るきっかけにしてほしいですし、パートナーや祖父母世代、子育て支援に携わる方、周囲に働く母がいる職場でも読んでいただけたらと思います。そして、この本が、これから子どもを産むかどうか、その選択に迫られている人の助けにもなれたら嬉しいです。