「母になって後悔してる」を考える。〈後編〉「悔やむのは子どもを産んだことでなく、この社会で母になったこと」
母の後悔、子どもはどう理解する?
柏木: 多くの母親たちは、「後悔は母になったことに対してであり、子どもを産んだことではない」と語っていますが、“後悔”を子どもに伝えることには、懸念の声もあったそうですね。その中で、母としての責任を一身に背負って苦しんでいた女性のお子さん二人がその母の後悔について、非常に理性的に受け止め、母親に対して思いやりある回答をしていたのが印象的でした。 それぞれ、「母は子どもを産んだことでなく、母親という立場になったことに後悔している部分があり、私たちを産んだことを否定されている感じはしない」「僕は、母だってひとりの人間でもあると理解できる。でも、子どもと母親は一体であると考えて、母の“後悔”を知ることで、自分が否定されているように感じる人たちもいるのではないか」などと話していました。 髙橋: 企画した段階や、報道後のコメントなどでは「母になった後悔なんて言われたら、子どもが傷ついてしまうのでは?」などという意見は確かにありました。でも、想像するだけではなく、実際に子どもたちにとってどういう経験になるのかを、取材を通して知りたいと考えました。 インタビューしたお子さん二人は、普段から家族で社会問題や母親像の違和感について話し合う機会があり、日々の会話の中で、母親の“後悔”について耳にしていたそうです。今回のお二人が「母親が自分たちに後悔の刃を向けているのではない」と理解していることにほっとしたのと同時に、子どもの年齢や性格、親子関係によって受け止め方は異なるので、やはり後悔を子どもと話すことは簡単ではないとも感じますし、「後悔をすべての子どもに伝えるべきだ」とも思いません。 取材をした女性たちで、子どもに対して怒りをぶつけて「後悔している」と言った人はいませんでした。母親が後悔の気持ちを持つのは、子どものせいではありません。でも現実には、母親から責められ、怒りをぶつけられながら後悔を伝えられ、傷ついたという経験をした子どもはいます。子どもを傷つけた母親を批判するだけではなく、母親がなぜ子どもに言わなくてもいいはずの「後悔」という言葉を伝えたのか、その背景を考えていくことが重要だと思いました。