[猫学46回目]文学と遺伝学と猫学と――初の猫学フォーラムでにゃんこを論じる(中)
テーマ「猫がいるから生きていける」 作家 山口恵以子さん
8月4日に開かれた猫学(ニャンコロジー)フォーラムで、山口さんは鮮麗な緑の和服姿で登壇されました。今でこそ人気作家ですが、2013年に松本清張賞を受賞するまでは、自身の理想とほど遠い日々を過ごし、もがき続けていたそうです。そんな中で、心の支えになったのは猫の存在でした。講義の様子をダイジェストで紹介します。 【写真】白猫のボニーなど3匹の猫と暮らす山口さん
山口恵以子(やまぐち・えいこ) 大学卒業後、脚本家を目指してシナリオ学校に通い、テレビドラマのプロット(脚本の土台となるあらすじ)を多く手がけた。2007年に「邪剣始末」で作家デビュー。13年、「月下上海」で松本清張賞を受賞。社員食堂で働いた経験を生かした「食堂のおばちゃん」「婚活食堂」シリーズで人気を呼ぶ。読売新聞くらし面「人生案内」の回答者も務める。
猫の存在に救われる
2000年に父が亡くなると、しっかり者の頼れる存在で、生来の猫好きだった母に認知症の症状が出てきました。当時の私はお見合いを43回しても成就せずに結婚をあきらめ、宝石店の派遣店員をしながら、細々とドラマの脚本のプロットを書いていたのです。 心身とも八方ふさがりといった状況で、将来のことを考えると怖くてたまらない。そんな中にあって、夜に2匹の猫を抱いて床に就くと、ようやく落ち着いた。猫がいるからなんとかやっていけているなと、しみじみ思いました。 2007年に時代小説で作家デビューしたのですが、更年期うつになったこともあり、鳴かず飛ばずの時期が続きます。その後、社員食堂で働いていた2013年に、松本清張賞をいただき、「食堂のおばちゃんが受賞した」とマスコミから注目されました。
猫に話を戻しますと、今は、白猫のオスのボニー、黒猫のメスのエラとタマの3匹の猫と暮らしています。 猫と一緒に暮らして困るのはやはり、猫がパソコンの上を走り回ることです。キーボードの上に乗っかられて、おかしな文章になったり、順序が入れ替わったり。意味不明な記号が並んでしまい、すべて消したつもりで提稿した後、編集者から「最後の記号のようなものは、これは何でしょう」と問い合わせがきたこともありました。 一番覚えているのは、原稿が丸々消えてしまったときです。ショックのあまり、この子と一緒に死んでしまおう……と思ったほどでした。実際は、原稿は保存されていたので、まったくの早とちりだったのですが。