AIが競走馬の一生を変える? 馬用のアップルウォッチ「EQUTUM」に迫る/株式会社ABEL大島秀顕代表インタビュー
AIの登場は世の中を大きく変化させ、その関心は日々高まっているが、競馬界においてもAIの分野で挑戦している企業がある。それが競走馬管理クラウド「EQUTUM(エクタム)」を開発する株式会社ABELだ。AIを活用して「凱旋門賞を勝ちたい」と豪語するのが同社の大島秀顕代表取締役である。AIを導入することで競馬界はどう変わるのか。話を伺った。 ──まず競走馬管理クラウド「EQUTUM」はどういったものか教えてください。 「馬に装着してデータを得る機械ですね。例えとして僕がよく言うのが『馬用のアップルウォッチ』ですよ、と。アップルウォッチは装着している人の健康状態などを計ってくれるじゃないですか。馬のそういったデータを取ることで今どういう状態にあるのかとか、どういう能力、コンディションにあるのかっていうのを定量的に測定します。そのデータを元に、適距離はどこであるとか、怪我などは大丈夫かなどをAIが判断するといったものとなります」 ──なぜ「EQUTUM」を作ろうと思い立ったのでしょうか。 「実はいろんな偶然が重なったんです。元々犬が好きで、自分の愛犬の健康の可視化からスタートしたんですよ。そこから、この機械を競走馬に使ってみたら、もっとできることがたくさんあるんじゃないかという話になりました。その相手がいま共同研究をしている東京農工大学の教授なんです。 元々私が乗馬をやっていて、馬に携わっていたこともあってこの業界が好きというところもありました。またエンジニアだったのでできることも多いのではないかと感じて始めました」 ──現在はどのくらい導入が進んでいるのでしょうか。 「東西のトレセンはもちろん、地方競馬でも大井、船橋、川崎であったり、高知や門別など中央、地方問わず導入してくださっています。あとは育成牧場でも導入してくださっているところもありますね。 中央でいえば美浦の武井亮先生はずっとご支援いただいているので、今年アーバンシックが菊花賞を勝たれてとてもうれしかったですね。地方では大井の森下淳平先生にとてもお世話になっています。森下先生は私たちがまだ形がないところからフォローしていただいて、全部データを取らせていただき、そのフィードバックをいただきながら実績をつけさせていただきました。そういう意味でもダテノショウグンの存在はとても大きいですね」 ──今は何頭分ぐらいのデータをお持ちですか? 「頭数的には1100頭ぐらいのデータを持っています。計測数で言えば7000計測ぐらいされているのかな。なので、馬の適性などはかなり見えてくるようになりました」 ──装着する器具はどのようなもので、馬のどこに装着するのでしょうか。 「馬が脚につけているプロテクターにポケットがついているのでそこに入れるだけです。データを取るとして『あれだけ速い馬にどうやって付けよう」からまず始まって、機械は壊れないのか、嫌がられないかみたいな懸念もあったのですが、行ってみるとすんなり受け入れてもらえて、嬉しい誤算でした。馬に負担となればそれだけで怪我につながってしまうので、できる限りこれまでのルーティンを変えないようにというところは意識して、そこはクリアできたと思います」 ──これまでもデータを取る仕組みはあったと思うのですが、「EQUTUM」がそれらと違う部分はどこですか? 「これまでも心臓などのデータは取れていたと思うのですが、それらと大きく変わる部分としては脚にセンサーをつけているので、正確な脚の動きを取れるようになったことですね。 また、取ったデータをどう生かすかもこれまでとは違うと思います。私たちはデータから何を導き出すかというところにテクノロジー、AIを使って研究していて、適性の高いレースの研究はもちろん、競走馬は能力をいかに引き出しつつ、怪我を防ぐかという両輪で成り立っているので、そのあたりもデータと研究結果を基に出すことができるかなと思っています。 例えば飛びが大きい馬がいたとして、本来は上がり3ハロンずっといいストライドで走る馬が2ハロンしかできていないとします。そういったときにこれまでのデータの蓄積があるので調子が悪いのか、怪我をしてしまいそうなのか、仕上がり具合など、そういった部分をデータで可視化することができます。これらは弊社が単独でやっているのではなく、東京農工大学と一緒にやっていまして、教授の方に論文を執筆いただいて、国際学会で発表いただいたり、根拠に基づいて取り組んでいます」