天理が受け継ぐ橋本野球 恩師に「笑利」の報告を 選抜高校野球
「亡き恩師に勝利を届けたい」。19日に開幕する第93回選抜高校野球大会。第2日(20日)に登場する天理(奈良)の中村良二監督(52)が師と仰ぐのは、主将として出場した1986年夏の甲子園で天理を初優勝に導いた元監督の橋本武徳さん。2020年10月、下行結腸がんのため75歳で亡くなった。中村監督は選手を信じて自主性を重んじる「橋本野球」を受け継ぎ、「子どもたちの雄姿を天国から見守ってほしい」と願う。 【写真特集 センバツリハーサル】 橋本さんの指導を受けた高校時代の3年間が「自分の原点」と語る中村監督。全国制覇をなし得たのも、その指導があったればこそだ。練習は厳しかったが、甲子園では常にニコニコ顔。「監督の指示通りに動くだけの野球で勝っても意味がない」。自ら考え、行動する野球の面白さを徹底的にたたき込まれた。 橋本野球の教えの一つが「甲子園に出場するにふさわしい学校、選手を育てること」だ。自身も高校時代、早朝から市街地の清掃活動に加わり、奉仕の精神を培った。「野球だけ上手でもダメ。マナーが悪く、周囲から応援されない子たちにはなってほしくない」。今の選手にもその思いを伝えようと、あいさつや人を気遣う大切さを説く日々だ。 母校の監督に導いてくれたのも、橋本さんだった。指揮官として初の甲子園に挑む不安を打ち明けたときには、「お前が笑っていれば、それで勝てるわ」と帽子のつばの裏に「笑」の文字を書いてくれた。「おおらかな人だった。『どんと構えて、生徒を信じろ』と言いたかったのだと思う」。亡くなる前日、病床で会話を交わした際にも、県予選での優勝を喜び、「センバツに選ばれたら、甲子園に応援に行く」と約束したばかりだった。 今も、センバツ出場決定などの節目には必ず橋本さんの墓を訪れる。「先生、どうか力を貸してください」。20日の宮崎商との初戦には、橋本さんが書いてくれた「笑」の文字入りの帽子をかぶって臨み、墓前に勝利を報告するつもりだ。「厳しくも優しく見守ってくれる、おやじのような存在だった。いつか、自分も選手たちにそう思ってもらえたら」。橋本さんの教えを胸に、指導者として、その背中を追い続ける。【広瀬晃子】