内定式後の辞退を防ぐ 内定者にバイトさせる企業はブラック?
この調査によれば、実施率が高いのは上位から「内定式(オンライン含む)」「内定者懇親会(対面)」「社員を交えた懇親会(対面)」「人事からの定期連絡(電話、メールなど)」で、いずれも一番低い定期連絡でも50%を超えています。 注目すべきは実施率が高いからといって、それが必ずしも入社意欲を高めることにつながっていないということです。この調査を見る限り、実施率上位の内定式でも50%を切り、人事からの定期連絡は21.1%と貢献度はあまり高くありません。一方、対面による内定者懇親会や社員を交えた懇親会の効果は高く60%を超えます。 ●「内定者懇親会に参加しないとダメですか」 最近ではこんな声も聞かれるようになってきました。「内定者懇親会って必ず参加しないといけないですか」。タイパを重視する世代である学生たちは、何か得るものがなければ内定先の催しでも率先して参加しない、と考えるのです。かつてのように食事会を開いて、学生に飲んだり食べたりしてもらえば内定者をつなぎ留められるわけではないのです。 催しを何のためにやるのか、取り組みの目的や内容を学生にきちんと伝える必要があります。例えば、内定者にバイトをしてもらう場合もそうです。「内定者にアルバイトをさせる企業ってブラックですよね」という声もある中、理由をしっかり説明できないと、学生は「人手不足で、欠員補充に都合よく使われているのでは」と疑うかもしれません。 「入社したらやる仕事なのだから、2カ月、3カ月早くやったところであまり意味がないのでは。それでも内定先でバイトをする必要があるのか」と考えても無理ないですし、バイト代も地域の最低賃金と同額程度を提示したら、「今のバイト先に比べて時給が安い」と思われマイナスイメージにつながります。 例えば、こんなふうに説明してはどうでしょうか?
「社員の名前を早く覚えることで、入社後の無用なストレスを減らせる。入社直後は初めての仕事でストレスがかかる上に、誰に相談していいかも分からなければさらにストレスになる。まずは名前と顔、どういう人がいるのかを知っておいて、困ったときすぐに話しかけられるような関係をつくっておけば4月からより安心して働けそうじゃない? そういう意味で、内定者で希望する人にバイトという形で案内しているのだけど、どうやってみる?」 こう話せば、少しは納得感が増すのではないでしょうか。「学生生活も残り少ないので遊びたい」と学生が言うなら、それもいいでしょう。その場合は、思う存分遊んでほしいと伝えればよいのです。中途半端が一番よくありません。 私は学生によくこんなふうに話します。「もし部活動や論文の執筆に集中したいとか、学生時代にこれだけは必ずやっておかないと後悔することがある、というのではないなら、早めに社会人になる準備をするのもいい。そうすれば自分の思い描いた社会人に早く近づける可能性があると思うよ」。自分へのリターンが大きいと考えて、積極的に動き始める学生もいます。そうしたことを会社が後押ししてもよいのではないでしょうか。 「キャリタス就活 2024 学生モニター調査」によれば、学生が内定後から入社までに感じた不安の上位3つは「仕事についていけるのか」「社会人の生活リズムに慣れるのか」「入社後、人間関係がスムーズにいくか」です。であれば、この不安を解消することにフォーカスしたフォローが学生にとって一番いいのではないでしょうか。 https://business.nikkei.com/atcl/plus/00056/101000018/?SS=imgview&FD=-1040850507 内定後から入社までに感じた不安、グラフ ●今こそ志望動機を見つめ直す 私が企業にお勧めしている内定者フォローの取り組みは、学生に就職活動を振り返って、自分の思いや志望動機を改めて整理し、言語化してもらうことです。これらをしっかり言葉にしておくと、数多くの中からなぜこの会社を選んだのか、何のためにこの仕事をしようと思ったのかがより明確になり、迷いがなくなるからです。 企業は内定者に辞退されたくないので、引き留めることばかりに目が向きがちですが、それではうまくいきません。学生の不安を解消するために、学生には「早く一人前になれるといいね」「楽しく働いて、自分の夢を実現できるような力をつけてね」といった成長を支援するスタンスでフォローをしていくといいと思います。 (構成=荻島央江)
谷出 正直