「ルイヴィトン」が創造するAIマーケティング 香水の匂いも視覚化
まるで絵画のようだった。しかし、向き合ってみると、絵の中の女性がしゃべり出した。 【関連画像】ロレアルは、ヘアケアブランド「ケラスターゼ」のビジュアルデザインを生成AIを使ってつくり上げた これは、高級ブランド世界最大手の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンが試作した「AIソムリエ」というサービスである。 額縁の中の女性と会話すると、自分の味の好みをくみ取り、食事に合ったワインを推薦してくれる。驚いたのは女性の表情や口の動きが、生身の人間のように自然で、滑らかだったことだ。 LVMHによると、実際の人間の見た目や動きを忠実に再現できる技術「メタヒューマン」と、ゲームエンジンを組み込んでいる。ワインに関する知見は、もちろん生成AI(人工知能)を使って学習させた。今はワイン全般の質問に答えるよう設計されているが、滑らかな動きを生かせば、一緒に料理を楽しむこともできるという。 LVMHは5月下旬、仏パリで開かれた欧州最大級の技術イベント「VIVAテクノロジー」で、「ザ・ドリームガーデン」という名の大型ブースを構えた。生成AIをはじめとした最先端の技術を駆使し、高級ブランドならではの「夢の体験」をいくつも披露してみせた。 ●「生成AIは視覚化が得意」 AIソムリエと並んでブースで目を引いたのは、「オルファクティブ・ランドスケープ(嗅覚風景)」という耳慣れない概念である。 VR(仮想現実)ゴーグルを装着し、目を開けると華やかな風景が広がり、同社の香水「ゲラン」が放たれる。この風景は、ゲランの調香師がしたためたノートの情報を基に、生成AIを使って描き出した。視覚でも、香水の世界観を味わえるという新感覚のアプローチだ。 LVMHは、革新的なブランド体験を創出すべく、ラボを設立。ワークショップを通じて、生成AIを使ったアイデア出しに挑んでいる。 ラボのトップを務めるエロディー・レヴィー氏は「生成AIによって生成されたアイデアは最大で30%程度だ」と明かす。決して多数派でなく、人の集合知を置き換える存在ではないとしながらも、「生成AIは人のアイデアをより視覚的にしたり、よりよい言葉に言い換えたりするのが得意だ」と語る。つまり、アイデアを磨き上げるために生成AIを活用しているのだ。 VIVAテクノロジーの開催に合わせ、LVMHは毎年、「LVMHイノベーションアワード」を発表している。創設5年以内のスタートアップを世界から募り、受賞企業には、LVMH傘下のメゾン(ブランド)と協業する機会を提供する。 LVMHにとっては有望なビジネスパートナーを一本釣りできるというメリットがある。実際、2023年に受賞した米国のAIスタートアップとともに始めたのは、ホームページをふらりと訪れた消費者が、今この瞬間に何に興味を持っているかを推測し、コンテンツを出し分ける取り組みだ。ページ上の行動をAIで読み解くことで、この人はどういう人なのか、というペルソナを瞬時に把握している。