イタリアのセレブに「足袋」が人気絶頂、彼らはなぜ足指を隠すのか
コロナ禍が明けてから、世界がカジュアルになった。ビジネスマンたちはネクタイを外し、背広を脱ぎ、蒸し暑い革靴は別のものに変わろうとしている。 ■足袋シューズは「目に見えない靴」 いまイタリアのセレブに足袋が好まれている。「足袋が人気絶頂」と著名ファッション誌も見出しで伝える*¹。 イタリア人は足袋シューズを「目に見えない靴」と呼ぶ。それを「シャネルのパンプスのような格式ある透明感」とヴォーグも形容する*²。 始まりは80年代に日本を訪れた著名デザイナー、マルタン・マルジェラが、旅先で足袋を見かけて深い感銘を受けたという出来事にある。 足先が蹄のようになったその靴に、はじめは西洋の靴職人たちは、強い拒否反応を示したという。西洋では先の割れた靴なんて誰も見たことがなかったからだ。 でもいまTikTokerたちが発信し、スターのゼンデイヤが履いたりして、日本の足袋シューズはトレンドセッターたちのステータスシンボルになっている。Z世代のイタリア人にとって、それは履くだけでちょっとした「ファッションの達人感」が出る靴なのである。そんな背景もあって、足袋や足袋シューズは日本旅行のおしゃれなお土産のひとつだ。 *¹ 『GQイタリア』 *² 『ヴォーグ・イタリア』 ■サンダルから距離を置く高級メンズブランド ところでトレンドの履物といえば、ミラノのビジネスマンには、「エスパドリーユ」も好まれている。 いつのころからか、高級メンズブランドが、サンダルから距離を置き始めた。かわりにモデルたちは、涼し気に、淡い春色の、つま先の隠れるエスパドリーユを履いている。エスパドリーユは底が麻で作られ、リネンやスウェード、キャンバス地で出来た靴である。 その起源はスペインの農民の靴だ。あるとき奥深い山あいで、農作業をしていた屈強な男たちが、植物繊維をぐるぐる巻きにした靴底に、木綿の生地を縫い付けてみた。その無骨な靴はなかなか塩梅が良く、農作業で汚泥に塗れてもすぐ乾き、丈夫で、傷んでもすぐ作り直すことができた。やがて鉱山労働者たちからも気に入られ、一日中水浸しで働く漁師たちからも、愛用されるようになったのである。