女子世界王者がV14の具志堅超えを果たせた理由
偶然にも、足立区総合スポーツセンターで世界戦が行われることになって、小関は、その施設の小さな子供たちを16人招待していたのである。1ラウンドから8ラウンドまで二階席から「桃ちゃん、頑張れ!」という黄色い声が途切れることは一度もなかった。「あの声が力になりました。子供たちにかっこわるく倒れるような試合は見せられないと思っていたので。この試合、一番のモチベーションでした」。 小関は、ドーピング検査を終えると、チャンピオンベルトを持ったまま、子供たちに勝利を報告した。「みんなありがとうね」と言う前に「桃ちゃん、頑張ったね!」と小さな小学生に労われた。「桃ちゃん、14回勝ったって、世界で一番強いってことなの?」。鋭い質問が飛ぶ。小関は、こう答えた。 「世界には、私よりもっと強い人がたくさんいるんだよ。このアトム級という体重では、一番強いっていうことだけ。男子になると、もっともっと防衛している人もいるんだよ」。それは小関の正直な気持ちだった。 記者会見でも、記録のことを問われ「もう数字や回数を意識したくない。回数というプレッシャーを受けるのは、もういいやって感じです。目標は自分の理想を追い、強くなることですから」と答えた。ただ、これで2008年8月11日以来、約6年、2181日間、負けていない。そのことを聞かれると、少し、目を輝かせた。 「毎試合、コンディションを整えて、結果を出し続けた。それが6年間だと考えると、振り返ると自分でも凄いなと思う」。 試合前も試合中も致命的な怪我も負わず、リングに立てなくなるほど体調を崩したこともない。その裏にあるのは、32歳の女性の驚くほど地味な毎日の繰り返しである。今なお、実家で両親と暮らしている。朝のロードワークを終えると、高齢者施設で食事を準備する仕事をして、夕方から高田馬場のジムで練習。休日は、疲れ果てて動く気にもなれない。気分転換にショッピングに出ることもあるが、知らないうちにボクシング用のシャツやスポーツ用品を探している。